友に捧ぐ一時の安らぎ ページ11
鼻歌交じりに備え付けの台所でレフは紅茶用の湯をわかせていた。
部屋の温度は低くもなく高くもなく、心地の良い温度設定にしている。
『あ、そうだ…確か、此処に…』
今日買ったばかりのアンティークのカップを取り出す。
ホテルに備え付けの備品はあるもののフョードルの為に用意した彼が好みそうなこのティーカップで紅茶を入れたい。
細やかで繊細な細工の施されたティーカップは1セットで4万はくだらない。
其れも幾つも買い、フョードルに贈物と称して無償で与えているのだから貢いでいる、と言われても過言ではないだろう。
もちろん本人はそんな気などないが。
冷蔵庫から、梨のタルトを出し皿に盛っていく。
本人は理解しているか分からないがフョードルは梨がめっぽう好きだ。
以前梨を送った時に「中々美味しかったのでまたお願いします」と大分省いたがこんな事を言われた。
珈琲と紅茶なら紅茶の方が好きだし、甘味が好きでよく一緒に口にしているのを見ている。
意外と子供っぽい所が多いのが何とも庇護欲を唆られた。
世話好き子供好きのレフが、フョードルに甘く色んなものを送り付けるのは其れが理由の一端でもある。
『ふむ、完璧なのでは?』
一通りの用意の済んだ部屋を見てレフは満足げに微笑む。
風呂上がりに着る為の服も用意した。
元は贈るつもりで購入したゆったりとした服は綺麗に畳まれ更衣室に置いておいた。
フワフワな手触りのタオルを両手で持ち、忙しない様子で更衣室の前でフョードルが出てくるのを待つ。
さながら、主人の帰りを待つ犬である。
ガチャり、と扉が開いてフョードルが出てきた。
『さあ、坊ちゃん。此方へどうぞ』
フョードルを椅子へ招き寄せ座らせる。
「気持ちが悪いのでやめてもらっていいですか」
『酷い!』
未だ濡れている髪に持っていたタオルをパサりと被せ丁寧に拭き取っていった。
何も言わず、ただされるが儘に身体を委ねているフョードルに何とも言えない気持ちになりながらドライヤーを取り出す。
タルトに手を伸ばそうとしたフョードルの手をそっと制すと何故?と瞳が此方を向いた。
『まだ髪を乾かして梳いていないよ!』
「自然乾燥で良いでしょう」
『折角綺麗な黒髪なのに勿体ないじゃないか!』
この部屋において優位に立つのは自分であると微笑んだレフにフョードルはムッと口を閉じた。
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なはて(プロフ) - ものすごい面白かったです!作者様の気が向いたらでも良いので、続きを書いてくれたら嬉しいです! (2022年4月25日 7時) (レス) @page22 id: 72c776ebcc (このIDを非表示/違反報告)
天人鳥(プロフ) - すんごい続きが気になります…。更新お願いします! (2022年3月28日 19時) (レス) id: d581acac34 (このIDを非表示/違反報告)
塩じゃけ(プロフ) - この作品完結してしまったのでしょうか…?続きが気になります! (2021年5月1日 12時) (レス) id: 5986ae6a0e (このIDを非表示/違反報告)
二酸化酸素(プロフ) - わたくしさん» それなです〜ほんと色とかもつけて欲しいです。絶対上手い (2021年3月27日 23時) (レス) id: f6be19e74d (このIDを非表示/違反報告)
わたくし - 絶対デジタルで絵描いたら上手いですよ! (2021年2月7日 1時) (レス) id: 6ee51eba6b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユウリ | 作成日時:2019年7月16日 23時