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云われなくとも ページ14

「太宰君、仕事が残ってるのでは?」
 未だにAの手を掴んだ儘でいる太宰に、Aは少し困惑しながらも声を掛けた。太宰は其れに「あぁ、うん」と生返事を返しながら、彼女の手をニ、三回程握ったり軽く振ったりを繰り返す。
「えぇ……。本当に何ですか……」
 いよいよ本格的に訳が判らないと云う声を発したAに、太宰はくすくすと笑った。
「いやぁ、Aちゃんとはそこそこ長い付き合いになるからね。君が死んじゃったら、今この瞬間が今生の別れになる訳だから、こうして君の生を堪能しておこうと……」
「急に不吉な事云うの止めましょうか、太宰君」

 「まぁ、取り敢えず」
 太宰が切り替えるようにして、視線をAの手元から彼女の目へと向けた。至近距離で見る彼女の独特な瞳に、自分が写っているのが良く見える。
「簡単に死んじゃあ、駄目だよ」
 Aの瞳が、一瞬大きく見開かれる。
「──云われなくても」
 云われなくても、そもそも簡単には死ねないんだよ、私は。
 Aの胸の内に気づかない太宰治は、其の言葉に満足気に頷いた。

 そして別れの挨拶を済ませると『もうこの場に用はない』とでも云いたげな背中で、一度も振り返る事なく帰って行ったのだ。



 さて、と曲がり角の向こう側へと消えて行った太宰を見届けた後に、Aはそっと息を吐き出した。
 中原君に鉢合わせしないうちに、さっさと家に帰ろう。
 俯きがちに歩き出したAだが、「失礼」と掛けられた声に後ろを振り向く。

 視線の先には、青い背広を着た男。
「ふむ、聞いていた外見と一致しますね。すれ違わないようにと、高校の周りを散策した甲斐がありました」
 昨日の今日で、知らない人物からの接近に多少は警戒する事にしたAが、一歩足を後方へと下げた。
 ──人間じゃない。
 Aの鋭い嗅覚が、彼を形作る人工物の匂いを嗅ぎ取った。再び一歩、二歩と足を後方へと進める。

 其処で初めてAが尋常ではない警戒心を己に向けている事に気がついた男は、軽く頭を下げた。
「名乗らずに失礼しました。当機は欧州刑事警察機構の捜査官、アダム・フランケンシュタインです。貴方はAAさんで間違いありませんね?」
「警察? 何故に? 私何も悪い事してない……。してないよね?」
 頭にハテナを浮かべたAを一瞥して、アダムは云った。

 「一先ず移動しましょう。中也様が校門前でお待ちです」

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黒猫 - pixivの方でコメントできないのでこちらでさせていただきます。相変わらず面白かったです!他の小説も読ませていただきました。ポケモンの「顔面600族は見慣れてるから」で「スゲェ」ってなりました。私は何回見ても慣れる気がしません…。次の更新、楽しみにしてます! (9月3日 16時) (レス) id: 4dfbfc9ed5 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 息抜きさん» 返信ありがとうございます!読みづらいことは無いです!普段pixivで読んでいるので、名前変更は出来ても出来なくてもそんな気にしてないので!ただ仕様なのかどうなのか気になっただけです!返信ありがとうございました!これからも楽しみにしています! (6月4日 18時) (レス) @page16 id: 199d1c4ec1 (このIDを非表示/違反報告)
息抜き(プロフ) - 霧さん» コメントありがとうございます! くるっぷには占いツクールの様に、名前表記を変更する事が出来ないんです😭 読みづらくて本当に申し訳ないです…… (6月3日 22時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼します!いつもワクワクしながらこの小説を読ませていただいております!主にpixivで読んでいるのですが、くるっぷというサイトでも小説読みました!質問なんですが、あの(名前)は変更できるのでしょうか?それともそういう仕様なのでしょうか? (6月2日 22時) (レス) @page17 id: 199d1c4ec1 (このIDを非表示/違反報告)
息抜き(プロフ) - ほしくずさん» お待たせして申し訳ありません。昨晩から色々と方法を試してみたのですが、いまいち進展がなかったので、くるっぷというサイトも使用してみる事にしました。わざわざアプリを入れる手間をかけて頂いたのに、解決策を見つけられず申し訳ないです……。 (5月25日 13時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:息抜き | 作成日時:2022年12月28日 22時

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