Episode2 -5 ページ11
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一応戻ってきた多江ちゃんにも聞いてみたけど多江ちゃんも用事があるようで、結局私は一人でバー「KIWI」の扉を開けた。
カラーンといつもと同じ音がして、「いらっしゃいませ」と落ち着いた声が返ってくる。
カウンターの中には珍しく櫻井くんしかいなかった。
櫻井くんは私を見ると一瞬眉間にしわを寄せて、だけど所作だけは優雅に「どうぞ」とカウンター席を勧める。
「お邪魔します……」
「なにそれ」
思わず口から漏れ出た言葉をふっと櫻井くんが鼻で笑った。
馬鹿にされたのかと思ったけど、どうやら本当に笑っただけのようで。
一瞬緊張して固まった肩から力が抜けるのがわかった。
「なんかいい香りがする」
私から受け取ったコートをかけながら櫻井くんがそう言った。
「そう？スプレーしたばかりだからかな」
「へー……何の香り？」
「レモンだけど……えっと…」
「……別に、なんでもないけど」
「そっか」
いつものクールな表情で櫻井くんがカウンターに戻ってくるのを見届けながらとりあえずビールを注文して、鞄からスマホを取り出した。
ボタンを押すと受信したメールが表示される。
その中に今日中に返さなきゃいけない仕事のメールをいくつか見つけて思わずため息が漏れた。
仕事の内容と丁寧な文章を両立して考えながらメールを返信して「ふぅ」と息を吐き出すと、私の視界に白っぽい色のカクテルが注がれたグラスが差し出された。
不思議に思って顔を上げると、いつものクールな表情のまま私を見つめる櫻井くんの視線とぶつかった。
「え……と、ビールを注文したはずなんだけど……」
「俺がおごるからそれ飲め」
「え？」
「ホットのブランデーエッグノッグ。飲むまで帰さない」
「ええ？」
突然そんなことを言った櫻井くんは私の前のカウンターに頬杖をついた。
アーモンドの形をした大きな目がまっすぐに私を見つめている。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年1月24日 21時
