Episode10 幼馴染 ページ21
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私瀬那Aと櫻井翔は幼馴染である。
「ねぇA、彼氏が迎えに来てるよ」
「だから、彼氏じゃなくてただの幼馴染」
「またまたぁ」
「ほんとにー？」
からかう同級生の声に「ほんとに！」と返しながら私は廊下に出る。
壁に背を預けていた幼馴染は私に気が付くと私の手からスクバをひったくった。
「あ、ねぇ、いつも言ってるけど自分で持てるってば」
「高校生のスクバはめちゃめちゃ重いんだよ」
「知ってるよ。だから自分で持つって言ってるんじゃない」
「だから俺が持つって言ってんだろ」
このやり取りも何度目か。
もっと偏差値の高い学校に行けただろうにわざわざ私と同じ高校に入学してきた幼馴染は入学以来ほぼ毎日教室まで私を迎えにくる。
二人とも帰宅部だから時間が合わないわけじゃないし、どうせ帰る場所はほぼ一緒だけど。
さすがにこの歳になるとちょっと恥ずかしい。
友達に毎回冷やかされるのだって少しだけ面倒だったりもした。
だけど、幼馴染と一緒にいる時間はほかの誰と一緒にいるよりも落ち着く時間で、私は負担をかけているかもしれないと思っても彼の迎えを断ることができない。
だから今日も結局のところ私は彼が来るのを待っていた。
「ねぇ、最近ちゃんと家に帰ってる？」
「はぁ？帰ってるよ」
「でも、ガラの悪い子たちと歩いてるのを見たってクラスの子が…」
「別に、お前には迷惑かけないって」
「そういう問題じゃなくて…怪我したらどうするの」
「……」
「もう」
「怪我はしないようにしてるし……俺の勝手だろ」
「……怪我だけはしないでね」
「……善処する」
帰りの道すがらそんな話をするのもいつものことだった。
そして、何度そんな話をしても幼馴染が怪我を作って戻ってくるのはいつものことで。
それでも私は幼馴染に迎えに来てもらっていたし、鞄を持ってもらっていた。
つまりはそういうことだった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月6日 21時
