Episode9 -12 ページ20
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薄暗い部屋の中で、窓から差し込む月明かりに照らされた翔の横顔だけが浮きだって見えた。
「ねぇ、翔」
「なに」
「教えてくれるんだよね？どうして私の記憶を消したか」
「ああ、ちゃんと教えてやるよ」
「じゃあ教えて？私が寝ちゃう前に」
一度ベッドに横になると、沈むように体が重くなっていくのがわかった。
自分で思っているよりも体は疲れ果てているらしい。
布団が温かくなってきて、瞼が熱を持つ。
「お前を休ませてからって言っただろ。だから、今日はもう寝ろ」
そっと伸びてきた翔の手が私に触れる前にちょっとためらうように止まって、だけど静かに髪に触れた。
優しく、頭を撫でられる。
昔はよく私が翔にそうしてたなって、懐かしい。
それと同時に私より大きくなった手を感じて、翔も大人になったんだなって少しだけさみしくもなった。
「でも翔…」
触れて、
「明日になったら教えてやるから。早く知りたいなら早く寝ろ」
離れて、
「あしたも…ちゃんといる……？」
触れて、
「あぁ、いるよ。ここにいる。お前が眠って目を覚ますまで、ちゃんとここにいる」
離れて。
「………だけ、ど……」
何度も頭をなでられているうちに、瞼が重くなっていく。
「俺がお前との約束を破ったことあるか？」
「ない……」
「だろ」
だんだんと翔の声が聞こえなくなる。
返事をしたくても、意識が夢の中に沈んでいく。
「おやす……み」
「うん、おやすみ」
なんとか告げた言葉を最後に、私の意識は眠りの中に落ちていった。
「……じゃあな、A」
最後にそうつぶやいた翔の声は私の耳には届かずに夜の空気にとけて消えていった。
そして、翔が私との約束を一度だけ破っていたことを私が思い出したのは、深い夢の中でのことだった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月6日 21時
