【東海】Deep Down (ページ5)

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橙ルート５ページ5

てっちゃんを送り出して、約1時間半。

動画の編集も一段落し、パソコンを閉じてソファーに寝転がる。

テレビはつまらないし、ぞーしが数日間不在なおかげでゲームの相手もいない。

クッションに顔をうずめて考える。
きっと、今頃女の人と…

うわ、自分で想像しといてすごい不愉快。
てっちゃんを奪っていく人たちも、私を置いていくてっちゃんも。

なんで私だけ我慢してるんだろ。
こんなことしたって無駄なのに。
…やっぱり帰っちゃおうかな。

ひとりだとこうして冷静に考えられるのに。
てっちゃんといると途端に思考が鈍くなる。

そういうわけで、受け取ったお金はテーブルに置き、キャップをかぶって家を出る。
1時間弱電車に揺られ名古屋へ。

だけど、その判断が間違いだった。

改札を出て突き当たりにある、とある有名ジュエリーショップを横切ろうとしたとき。

ふと、視界に入った。

小柄でかわいい感じの女の子。
その隣には、明るい髪色で派手な服装の男の人。

…てっちゃんだ。

思わずぱっと目をそむける。
おそるおそる、もう一度。

間違いない。
ふたりきりで。
女の子と笑い合って、ショーケースを指差して。

喉奥がひゅっと鳴った。
心拍数が一気にはね上がる。

どういうこと…
女＂遊び＂じゃなかったの？
贈り物するような本命の人、いたんだ…？

はじかれたように、必死でその場から逃げる。
途中で人とぶつかったけど、謝る余裕なんてなかった。

運良く無人の喫煙所を見つけてすべり込む。

瞬間、こらえていた涙がぼろぼろ溢れ落ちた。
うぅ、と嗚咽がもれる。

「なんで…私じゃ、ないの…っ」

誰よりも近くにいたはずなのにな。
本当の意味で、てっちゃんの隣にいるのはその子だったんだ。

今まで、夜遊びにふけるてっちゃんを見ては何度も諦めてきた。
あぁ、誰のものにもなる気がない人なんだな、って。

だから、ずっと気持ちを押し殺し続けて。
冗談で好きだなんてからかわれても、平静を装ってきた、のに。

なのに。

ずるずると壁にもたれこむ。
声を押し殺して、泣いた。

…どれくらい経っただろう。
我に返って、ごしごしと目元をぬぐう。

明日、目腫れるかな…
気付かれたらどうしよう。
動画内で、彼女できた！なんて言われたら？
よかったねって笑えるかな。

あれ…私、この状況を受け入れかけてる？

「はは、ばかだなぁ私…」

乾いた笑い声が、メンソールの残り香に溶けて、消えた。

そのとき。
ガチャン、背後で扉の開く音がした。