青ルート３ ページ30
あれから一瞬変な空気にはなったものの、おいしい料理を食べているうちに、りょうくんはいつもの調子に戻っていた。
いつの間にか支払いは済んでいて、半分出すという申し出は聞き入れられなかった。
レストランを出ると、さーっと冷たい風が吹き抜けて、思わず腕をさする。
「A、はいこれ」
「え？」
「寒いんでしょ？駐車場までちょっと歩くし、ほら」
ん、と上着を差し出される。
「いやいや大丈夫！りょうくんこそ寒いでしょ？」
「いいから。素直にありがとうって言うのもかわいい女の子の仕事だよ」
「別にかわいくなくていいし…」
「ま、俺はそんな風にちょっと気が強い子の方がタイプだけどね」
「なっ、」
りょうくんの目がいたずらっぽく光る。
からかっているように見せかけて、実は素直じゃない私への助け舟を出してくれている。
こういう隠れた気遣いに、また惹かれる。
「風邪ひいても知らないからね？」
「そしたらAが看病してくれるんでしょ？」
「ねーほんとさぁ！」
あははって笑われる。
そういうことじゃない！と、声を荒げながら上着を羽織る。
「あ、りょうくんの匂いだ」
ぽろっと心の声が漏れた。
あまりに無意識だったせいで、自分がなにを口走ったのかに気付けなかった。
りょうくんの驚いた顔を見るまでは。
「ん…？」
やば、私今なに言った…？
思い出して、すううと血の気が引いていく。
待ってこれ引かれる。
「や、あの、これは」
「それ…どっちの匂い？良いほう？悪いほう？」
「そ、そりゃもちろん良いほうだよ！」
思わず勢いよく告げる。
「…そ、よかった」
それだけ言い残して、急にすたすたと歩いていくりょうくん。
いや歩くの早っ！
と、突然りょうくんが立ち止まった。
あやうく激突しかける。
「…Aさ、」
くるっとこちらを振り向く。
「そういうの、他の人には言わんほうがいいと思うよ」
まっすぐな目で告げられる。
ふざけてる感じもなければ、諭している風でもない。
ただの忠告、そんな言い方。
「ごめんね、気をつける…」
「え、なんのごめん？」
「それは…」
「言い方間違えたわ、なんでごめん？」
ふふっと柔らかい笑み。
あれ？
「りょうくん…？」
首を傾げれば、再び大好きな匂いにふわっと包まれる。
とたんに、目の前が真っ暗になって。
「え…」
「俺だからこれでやめてあげられるけど。俺だから、ね」
背中に回る腕。
さらに力をこめられる。
心臓の音で、りょうくんの声が聞こえづらい。
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作者名：V
| 作成日時：2018年10月29日 17時
