【東海】Deep Down (ページ2)

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橙ルート２ページ2

恋心を自覚したからといって、特別なにかが変わるわけではない。
むしろ、変わる気配のない関係性に憂鬱が募る。

「じゃあ俺先帰るわ」
「ばいばいとしみつ、お酒飲みすぎて明日遅刻しないようにねー」
「オカンかお前は。Aこそ遅刻すんなよ？」
「するわけないから。余裕だから」
「君ら今ばちばちにフラグ立てたのわかってる？」
「なにそれわからん」
「わからーん」

虫さんがはぁ、とため息をつく。
その後としみつを見送りリビングへ戻ろうとすると、ちょうどりょうくんが出てくるところだった。

「さっきの話、なに食べたいか考えといてね」
「イケメンと一緒ならなんでもおいしいからなぁ」
「それはうざい」

くすっと笑って私の頭をなでる。
うーん。イケメン。

「気を付けてね！」
「ありがと、じゃあね」

無事にりょうくんも送り出す。
今度こそリビングに戻れば、そこいたのは虫さんただひとりだった。

「あれ、てっちゃんは？」
「シャワー浴びにいった」
「…え！？」
「驚きすぎでしょ」

くふ、と虫さんが笑う。
だって、てっちゃんがお風呂？自主的に？ありえなくない？
そう言いかけて、やめる。

「たしか、出かけるって言ってたっけ」
「いやいや、あいつそんくらいじゃ風呂なんて入らんでしょ」
「だから、気にせざるを得ないところ…」
「あぁ、そういうこと？」

私が押し黙った直後、バスルームのドアがガシャンと開く。
バスタオル一枚のてっちゃんが、鼻歌まじりにリビングにやってきた。

「きゃーAちゃんのえっち！」
「はぁ？…うわ、ちょっと！ちゃんと拭いてからお風呂出てっていつも言ってんのに！廊下びしょびしょじゃん！」
「ふべっ！痛っ！」

手元にあったタオルを投げつける。

「ごめんって……あ！A、ドライヤーして？」

しゅーん…ぱぁっ！うるうる。
くるくる変わる表情。
まるで子犬みたいな瞳。

「反省したの？」
「した！ごめんなさい！」
「はぁ…とりあえず服着て」
「え？わしの肉体美に惚れたって？」
「……」
「わかった着るから！だからその拳を降ろしてください！」

着替えの服を抱えてそそくさとバスルームへ戻っていくてっちゃん。
もう、と悪態をつけば、ちょうど帰り際の虫さんがにやりとひとこと。

「Aは本当てっちゃんに甘いよね」

どこが？
反論しかけて口をつぐむ。
まさに今、私はドライヤーを取りに洗面所へ行こうとしていた。

でも、訂正。
甘いんじゃなくて、これはきっと惚れた弱み。