03玄関前にて ページ3
というわけで、ショッピングバッグを持って部屋の前まで帰ってきた。
そしたらなぜかポアロのバイトくんが部屋の前にいる。
「あぁ、ちょうど良かったです」
少し困ったように笑う彼は、お鍋を持ったまま立っている。
『なんですかそれ』
早く要件を済ませてください。
こちとら君にあまり干渉したくないよ。
速やかに部屋に入ろうにも入れない。
「夕飯にお味噌汁を作ったんですが、余ってしまっておすそ分けに来たんです。先程、作ったばかりなので温めなくても大丈夫ですよ」
え?嘘だよね?
…絶対そのお味噌汁に睡眠薬入ってる。
温めなくてもいいとか怪しいよ。
薬は熱に当てるとよくないっていうし…。
今日、引っ越してきたばかりの隣人に薬をまぜたいい感じの温かさのお味噌汁を持ってこれるわけない。
まさかGPSで私の行動を監視していた?
いや、それはない。
GPSを仕掛けられるほど彼に接触はされていない。
となると、尾行されてたのが妥当か。
しかも彼ではない誰かに。
チッ。
イヤホンしてなければ気づけたはずなのに。
まぁ気づかなかったもんはしょうがない。
お味噌汁を口実に家にあげてもらうつもりだったのか?
そうでなくても睡眠薬を盛ってるのだから、家にあがらなくてもピッキングさえできれば…
ってただのバイトくんにそんなこと出来るわけないか。
ここまでの考えは全て無駄だったに違いない。
ともかくあれを受け取るわけにはいかない。
小説家の影のライターとバレるのも嫌だから、私の部屋に入られたくない。
よって答えは断る以外にはない。
そう結論づけて口を開くことにした。
『あの、相沢さん』
「安室です」
『残念ながら私、もう夕飯済ませて来ちゃったんです。』
「…そうですか。それは残念です。では、他の方におすそ分けしてきますね」
え?な…なんだと…。
他の人にあげる?
お味噌汁に睡眠薬は混じっていなかったのか?
「じゃあ、僕はこれで」
そう踵を返して彼のもう1人のお隣さんの方へ歩いて行った。
その背中を見つめながら
『あのお味噌汁気になるわ…』
って呟いたのは誰も知らないはずだった。
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作者名:星香 | 作成日時:2019年5月8日 17時