夏の魔法

夏の微熱。(２０１１年夏) １ ページ46

赤side


２０１１年７月。

今年もまた夏はやって来る。


でも、今年は毎年の夏とは違て、
浮かれてる場合やないねん。


「もう受験生か。
つまらんなあ」


「予備校申し込みに行こうや」


「あー、この前の模試、最悪やったわ」


クラスの面々も、
話題言うたら、受験のことになってきた。

みんな、
当たり前みたいに大学進学するて、
学部や学科まで、さっさと決めてて。

俺だけが置いてけぼりくらってる。



一学期が終わって、
夏休みに入ってすぐに、
軽音部の最後の日が来て。

あっという間に、
予備校通いの、
本格的な受験生の夏が始まった。


強制的に、
未来へ追い立てられてる気分になってまう。


俺はまだ高校生でおりたいのに。

俺、平均的な高３生より、
だいぶと精神的に幼いんやと思う。


予備校の自習室。


俺の隣の席は神ちゃん。

予備校には似合わへん、
ド派手なカッコしてんのにな、
至って真面目に勉強してる。


今日も横顔が可愛ええな。

見惚れてたら、
神ちゃんが、


『しげ、集中出来へんねやったら、
アイス買いに行かへん？』


そう走り書きされたノート、
こっちに、ゆずらせてきた。


「うんっ！行くっ！」


嬉しなって、つい声に出してしもて。


「しげ、声デカいって」


また神ちゃんに怒られた。








外は蒸し蒸しの灼熱地獄。

なるべくビルの影を探して歩く。


コンビニでアイス買うて、
いつも駅から予備校までの近道に使わせてもろてる、
公園に寄り道。


ここの公園、
鉄棒とジャングルジム以外なんもなくてさ。

しゃあないから、
ジャングルジムに座って食べることに。


子供みたいに一番高いとこまで登って、
遠くのビルを眺めながら。


あー、ええ天気。


このまま空の上、飛べそうやなあ。


「しげはさ、大学で勉強したい事とかないん？」


最近、先生や親に聞かれ続けて、
耳にタコな質問。

全くおんなじ事、
ついに神ちゃんに聞かれてしもた。


「ない。
なあ、神ちゃんは、なんでD大の経済学部行くん？」


「就職に有利やから」


あっさり返ってきた。


「神ちゃんの夢て何なん？」

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