夏の魔法

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３年生は今月で引退やから、

軽音部は、もし俺が入れば１４人。

２年生のバンドは、
今んとこ、３人組が２組。


しげは、
ギターボーカル担当の先輩が退部してもうたから、
俺に入って欲しいって言う。


楽器は好きやし、
歌も好きやで？


迷ってる理由は一つだけ。


これ以上、近付いたら。

俺・・・


「神ちゃん、俺らは２階の角部屋な！」


しげは、いつも楽しそうやな。


意識なんかせずに、
俺の手を引いて、
階段を駆け上がってく。


繋いだ指先が熱い・・・


嬉しいけど、目ぇ見られへんなるやろ。


「うわあ！すっげー！」


畳の和室が一間と、
板張りのちっちゃな縁側側が続いてるだけの、
よくあるシンプルな部屋やっていうのに、

しげは大はしゃぎや。


窓の向こうに広がる海。


「早速、泳ぎに行こ！」


張り切って、水着に着替え始めるから、
慌てて、窓の外を見てるフリ。


「ほんまに楽器の練習しいひんの？」


しげに背中向けたまんまで聞いてみる。


「夕方からちょこっとやるけど、
まずは遊び！
神ちゃんもはよ着替えてや！」


「俺、水着、持ってへん」


「なんでっ！！！
海来るって知ってたのに？」


「俺さ・・・」


カッコ悪いよな・・・


「なになに？」


「俺、泳がれへんねん」


康二と近藤に聞かれへんように、
小声で言うたのに。


「うせやんっ！！！
神ちゃん、カナヅチなん？」


思っきしデカい声で暴露されたし！


「もー、カッコ悪いから言いたなかったのに」


「そうなんや、可愛ええな」


しげは俺んこと、よう可愛いって言う。

もはや口癖のように。


「何がやねん」


その度、ほんまは、
胸ん中、そわそわしてまうから、
やめて欲しいねんて。

深い意味なんかないくせに。


「完璧な神ちゃんにも弱点あるなんか、
可愛ええ」


「うっさい。
別に俺、完璧ちゃうし」


「俺から見たら、完璧やの！
ま、水着ないなら服のまんまでええや。行こっ」


「泳がへんのに行ってもしゃあないやん」


「これは練習の一環やねん。
部長命令やで」


「何の練習やねん」


ぶちぶち言いつつ、
しげに連れられてく。

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