第一幕 弐 ページ4
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「……ただいま……」
仕事から帰り、誰も居ない寮の扉を開けて呟く。
地平線が茜に染まり、高い空には、ちらほらと星が瞬き始めていた。
「……逢魔が刻……」
彼岸と此岸の境があやふやになり、魔――詰まりは狐狸妖怪の類に出遇い易い時間。この時間になると、彼が愉しそうに語っていたのを思い出す。
――儂と君が逢うのは何時も、何故だか逢魔が刻じゃのう。
亦だ。綺麗な夕映えを見ると、毎日でも涙が出る。
――もしも儂が、逢魔が刻に君を拐いに来た妖怪ならば、君は如何するかね?
そうであったなら。もしそうであったなら、どんなに良かった事か。それならば、あなたは死ななかった。居なくなったりしなかった。私を連れて往ってくれたかも知れない。
莫迦げているとは判っていても、そんな考えが脳味噌にこびりついて、離れない。あなたの優しい笑顔も、離れない。
「夕焼け小焼けで日が暮れて――」
近所の小学生が、烏が鳴くのを聞いて歌い出した。
夕焼け小焼けで日が暮れて
山のお寺の鐘が鳴る
お手て繋いで皆帰ろう
烏と一緒に帰りましょう
「……烏と一緒に、帰ってきて下さいよ……」
夕日の絵具が、部屋をあの公園と同じ色に塗り替える。けれど、この部屋とあの公園は、明らかに違う。
場所では無い。時間は同じ位だ。
違うのは、居る人。
彼が……京極さんが居れば、何時だって何処だって、あの公園だ。朝でも、夜でも、この部屋でも。監獄だって、あの公園と同じ、私の大好きな場所に変わる。
「……京極さん……京極、夏彦さん……!」
どんなに呼んでも、返事なんて来ない。
優しく笑って、下らない話を聞いてくれる彼は――
私の知らない色々な事を、私にも判るように話してくれる彼は――
あの皺深い手で私の頭を撫でてくれた彼は――
――彼は、もう居なくなってしまった。
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ふらり火(プロフ) - あにもーさん» え、あ、ごめん! (2016年8月21日 21時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
あにもー - うん、そういうものだと思ってましたです。文がわかりにくくてごめんね (2016年8月21日 20時) (レス) id: 8d0782fc85 (このIDを非表示/違反報告)
ふらり火(プロフ) - あにもー@NL厨さん» いや、『七夕』の話の台詞やらなんやらを一寸変えるだけだよ? (2016年8月20日 23時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
あにもー@NL厨(プロフ) - おぉ!楽しみー! お盆だしね、会いたいよ!!!(誰) (2016年8月20日 21時) (レス) id: a66a974f2e (このIDを非表示/違反報告)
ふらり火(プロフ) - あにもー@NL厨さん» うん、出しちゃおう!( 織田作ね……何としてでも会わせたくて、やっちゃった← (2016年8月20日 17時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふらり火 | 作成日時:2016年7月20日 17時