弐十五 ページ25
海風がひゅうと音を立てて、陸奥の髪を靡かせる。
坂本達は自身の所有する船が停めてある港にいた。
「陸奥う。行かないかんのかのう」
「地球での商談は終わったきぃのう。次の商談相手も待っちょる」
商いをすることは好きだ。
広い宇宙を眺めながら、旅をすることも好きだ。
陸奥を始め、坂本を慕う沢山の仲間も好きだ。
反して、故郷である地球で過ごすことやその仲間も好きだ。
どちらかを選べというのは酷ではあるが、商いを生業としている以上選ぶものは一つだった。
しかし、いつもと違うのは新たな出会いがあったことだ。
それが坂本自身を引き止めようとしていた。
「…おんしが地球を離れたくないんは、わしにも痛いほど分かっちゅう」
陸奥もそれを分かっていた。
そして、坂本よりも地球を離れたくない気持ちが強いと見てとれた。
長年の間、会えなかった唯一の家族であり、愛する妹である。
行方知らずだった大切な存在と再会し、すぐにまた離れてしまうことは、あまりにも淋しすぎた。
「地球を離れるんは毎回寂しいと感じるが、こんなにも離れたないと思ったのは初めてじゃのう、陸奥」
「ああ。わしは故郷がここではないが、そう思う」
編笠越しにしか見えないが、俯く陸奥は切なげに笑みを浮かべていた。
編笠はくいと上げてやれば、拳が飛んでくる。
「何しゆうがか」
「陸奥もそんな顔するんじゃのうと思ってのう。いつも冷静に振る舞っとるせいか、人間味を感じて嬉しゅうて」
「人を機械のように言うな」
そう言って、今度は蹴りが飛んできた。
怯んでいる時、いつものように首根っこを掴まれ、引き摺られる。
「おまんのせいで冷めた。さ、仕事ぜよバ艦長」
「待ちいな。いつもの陸奥に戻るの早すぎぜよ」
「何を待てと。次の仕事があるぜよ」
引き摺られながら、ポケットにしまっていたものを取り出し、陸奥に投げ渡す。
「携帯電話ぜよ」
「携帯?社用のだけで十分じゃ」
「いいからもっときぃ。それに陸奥だけに渡しとる訳やなか」
自身の携帯を操作し、電話帳を見せる。
そこには、陸奥とAの文字。
同様に陸奥の携帯にもAの文字があった。
「それは陸奥の私用の携帯じゃあ。好きにつこうて貰うてよか」
陸奥は納得行かなそうに一息ついたが、
「じゃあ、有り難く使わせて貰う。じゃが、おんしの連絡先はいらんかったの」
と嬉しそうに坂本を引き摺って、船内へと足を進めた。
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Nattu(プロフ) - 麗羅さん» お返事遅くなって申し訳ございません。コメントありがとうございます*辰馬凄く好きなので自家発電にと書いていましたが、読んでいただけて幸いです。楽しみながら書きたいと思います*^^ (2021年2月20日 1時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅 - 辰馬の小説、少ないので嬉しかったです!面白くて、次が楽しみです!更新頑張って下さい! (2017年10月29日 16時) (レス) id: 9e2ac1505a (このIDを非表示/違反報告)
Nattu。(2代目)(プロフ) - れんりさん» れんりさん、はじめまして。コメントありがとうございます。とても嬉しいです…ゆっくりとではありますが更新していきますので、よろしくお願いします!! (2016年4月11日 22時) (レス) id: db806a29f6 (このIDを非表示/違反報告)
れんり(プロフ) - 凄く面白いです!!更新楽しみに待ってます…! (2016年4月10日 9時) (レス) id: 285e1a358c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2015年11月17日 23時