ブラックマジシャンガールll【はじめしゃちょーの畑】 (ページ37)

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分かってもらいたくて。ページ37

Aside

1週間以上遡って6月2日。

包丁で指を切ってしばらく包帯をぐるぐるにしていた。

1週間はこのまま、と言ってたけれど…

『治る気配がないんですよね…痛みが引かなくて。』

だいぶ深く切ってしまったせいか、治りが遅い上に、痛みが増してくる一方。

包帯を外したときに見える痛々しい痕はとても人には見せれないような。

切った痕はないけれど、少し腫れてしまっている。

ト「大丈夫なの？コメントとかでも治るの遅くない？って言われてるけど…。」

『うん…1週間で完治するものだと思ってたから。』

病院には忙しくて行けず…どうすれば良いのか探る日々。

色んな工夫をして、痛くないようにしてるつもりでも、効果が見られない。

や「一回ほんと病院行った方が良いと思うんだけどなぁ。」

『行きたくても行けないんですよ…。というか予約するの面倒くさいし。』

た「理由が「面倒くさい」って…」

この何でもかんでも面倒くさいで終わらせてしまうのは私の悪い癖。

これも直らない。

は「Aー、メイン…あっ、なんか話し合ってた？」

『いえ、大丈夫です。すぐ行きますね。』

包帯で巻かれた左手の親指を右手で隠して、笑顔で返事をした。

やっぱり伝わらないものなのか…。

心底、気付いてくれないのを寂しく思いながら一号室に向かった。

はじめさんは、鈍感だ。

は「Aー？」

『あっ、はい。すいません。』

昔はもっと…

_______
『はじめお兄ちゃん！あそぼ！』

は「良いよ！何する？」
______

もっと…。

はじめさんはもう、私のことを気にかけてはいない。

そりゃそうだ。自分の事だけで精一杯なのに、私を気遣える筈がない。

カメラに向かって元気に挨拶をするはじめさんは、とても楽しそうだった。

撮影が終わると、すぐに動画確認する。

いつもみたいに、笑いながら確認することは出来なかった。

どうしても、目が濡れてしまって。

雫が白い包帯に静かに落ちて、小さな染みを作った。

ごめんなさい…って言ったら、はじめは許してくれる？

は「…A？」

何に対して謝りたいのかも分からない。

のに、何故かごめん、と伝えたくて。

『はじめ…ごめっ…』

大人になってから、初めて「はじめ」と敬称を付けずに呼んだ。

そんな情けない私を、はじめは優しく抱きしめてくれた。

はじめは言葉をかけてはくれなかった。

それでも分かってもらえた様な気がしたのは、如何して。