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「そうか…」
「せっかくお父さんが紹介してくれた仕事だったのに、ごめん」
「Aは謝らなくていいんだよ？ お父さんがAに聞かないで話を進めたのがよくなかったんだ。そうしていれば、Aが自分でもっといい仕事を探していたかもしれないんだから」
お父さんは悪くない。
悪いのは嵐にも、佐藤さんたちにも、お父さんお母さんにも何も言わなかった、卑怯な私だ。
「お父さん、それは違うよ。私ね、お父さんにすごく感謝してるの」
「感謝…？」
「うん。今の職場は優しくて温かい人たちばかりで、本当にいいところなの。紹介してくれてありがとう」
そう言った私に、お母さんは優しく微笑みかけてくれた。
「Aは今の仕事が楽しいのよね」
「うん！この仕事に、みんなに出会えて本当に嬉しい！」
するとお母さんは真剣な表情をして、私に尋ねてきた。
「…本当にいいの？」
「えっ…？」
「今の仕事、好きなんでしょ？」
「そうだけど…」
「そんな簡単に辞めていいの？」
「…でも、もうクビになったも同然なんだよ？」
すると、今度はお父さんが私の目を見て言ってきた。
「…じゃあAは諦めるのか？」
「えっ…？」
「大好きなもの、そんな簡単に諦めて後悔しない？」
「それは…」
「このままでいいのか？」
「…！」
そうだよ。
雨はいつかやむ。
でもそれはお天気の話。
今私に降ってる雨は違う。
心に降る雨は自分が動き出さないとやまないんだ…！
「お母さん、お父さん、ありがとう。私、言ってくる…！」
「行くって…、どこに？」
"行く"だと思っているお母さんの目をまっすぐ見て、私は言った。
「私はこの仕事を辞めたくない、この仕事が、仲間が大好きなんだって」
お母さん、お父さんは微笑んで、いってらっしゃいとだけ言って、私の背中を押してくれた。
今ならまだ間に合う。
踏み出すんだ、雨がやんだ後の景色を見るために。
行くんだ、雨の向こうへー。
「…Aの明るくまっすぐなところ、あなたに似たのね」
「それを言うなら、Aの繊細で優しいところ、君にそっくりじゃないか！」
「A、いい子に育ったわね…」
この会話を私が知るのはまだ先の話。
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作者名：なつらい | 作成日時：2018年8月5日 17時
