【QK】12時45分

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　ミドル丈のウェディングベールにはビーズの刺繍があしらわれており、彼女が動く度にキラキラと光を反射して綺麗だなと思った。


　出来る事ならドレスを着せてあげたかったし、彼女の望む素敵なチャペルで多くの人にお披露目したかった。ベールだけでこんなにも綺麗なのだから、上から下まできっちりと揃えたら、それはそれは見る者全てを虜にするような美しい花嫁になったろうに。俺の欲目を抜きにして。


　誰も居ないオフィスで向かい合う。祭壇も何も無いので、まあ何となくの立ち位置だ。薄いベール越しに見える彼女が不意に難しい顔をした。


「Aさん、どうかした？」
「私、誓いの言葉とかあんまり覚えてないよ。健やかなる時も病める時も、って」
「あー。別にその辺はオリジナルでいいんじゃね？ 神前でも人前でもない、二人きりなんだから」
「成る程、オリジナルかぁ。それなら何とか行けそう」
「じゃあ俺から」


　オリジナルでいいと言ったものの、さてどんな台詞が誓いの言葉に相応しいだろうか。人前に立つ仕事をしているから、その場で考えて喋る事は割と得意ではあるのだが、流石に結婚式での誓いの言葉は発した経験が無いのでなかなか難しい。


「出会いの時からおんぶに抱っこ状態の俺でしたが、これからはAさんの事をしっかり守っていけるような、頼り甲斐のある夫になる事を誓います」
「おんぶに抱っこ状態なのに？」
「そこ突っ込む？」
「あはは、嘘だって。充分過ぎるほど頼りになるし、頼りにしてますよ。旦那様」


　快活に笑う彼女はポンポンと俺の腕を軽く叩いた。その言葉が本心である事を願いたい。俺は最初からずっと彼女に助けられっぱなしなので、彼氏として――夫として頼りにして貰えているかどうかが不安なのだ。


「じゃあ私は……そうだなぁ。若干ワーカホリックな節のある拓司くんをちゃんと見守りつつ、安らげる場所だと感じて貰えるような、包容力のある妻になる事を誓います」
「……Aさん、現時点で相当包容力ある方だと思うけど」
「そう？」
「うん。包容力あって放任主義」

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