7:死がふたりを分かつまで(izw) ページ30
小惑星の衝突まではもう殆ど時間が無いらしい。
このオフィスで過ごすのも今日で最後か――と感慨に耽りながら、俺は手にしていた荷物をテーブルの上に置いた。
世界が終わる日に相応しい居場所がここだと思った訳じゃない。ただ、何となく。ここは言わば俺の城であり、毎日通っていた場所であり、彼女の家からも近い。だからまあ、丁度いいかな――なんて。そんな理由だった。
昨日はここに皆が居た。最後のクイズ大会をしようと、男ばかり七人集まって、大量の酒と問題集を持ち込んでひたすらボタンを押した。たまたま集まれたメンバーが普段の動画メンバーだけだったので、いっそこのまま一本何か撮るかと血迷いかけたが、流石にそんな気にはならなかった。
賑やかだった昨日とは違い、今は俺と彼女の二人きりだ。
「伊沢さん」
窓の外を見ている彼女に向けてそう呼び掛けると、不自然な間を置いてから振り向いた顔は、気恥ずかしそうにはにかんでいた。けれど返事は無い。
「ちょっと。呼んでるんだから返事してよ、伊沢さん」
「だって慣れないよ。私、まだ伊沢になって数時間なんだから」
ついさっき、俺と彼女は家族になった。
何せ、世界が終わるという日だ。区役所も殆ど機能していなかったが、変わり者は何処にでも一人ぐらい居るものだった。
話を聞けば、俺たちの婚姻届を受理してくれたその人には家族がおらず、家に居てもどうしようもないと思い、それならばせめて自分の仕事を全うしようと考えたのだと言う。世界が終わる日に入籍しようなんていう、俺たちのような風変わりなカップルが居る可能性を考慮していたのだろうか。
「拓司くん、三十過ぎるまで結婚しないって言ってたのにね」
「気持ちなんてその時々で変わるものだろ」
婚姻届の証人欄は各々の友人に頼む事にした。彼女は彼女の友人に。俺は昨日オフィスに集っていた誰かに頼もうとして、結果、クイズ大会で一問目の正解をもぎ取った福良さんに書いて貰った。いきなり婚姻届を持ち出した俺に、皆さぞかし驚くだろうと思ったら「まあ伊沢だし何やっても驚かない」「伊沢さんですしね」で済まされてしまった。少々解せない。
526人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時