6:幸せの温度(kwkm/苗字設定が必要です) ページ24
死に場所なんて何処でもいい、と格好つけた事を言えれば良かったのかも知れないが、遂に当日を迎えるまで、最後の日を何処で過ごすか決められず、みっともなく迷い続けたままだった。
自宅から出ないでも良かったが、何となくあの汚い部屋で最後を過ごす気にはなれなかった。区で設けられた避難所などは行くだけ無駄だ。オフィスは昨日行ったので今日も行く気にはならない。じゃあ何処に行こうかと散々迷った挙句、結局、通い慣れたこの場所――キャンパスに来てしまった。同じ事を考えている人間は他にも居たようで、構内にはぽつりぽつりと人影が見られた。
銀杏並木は落ち葉による黄色い絨毯が敷き詰められている。この光景を見るのも随分と馴染みになったが、いよいよ見納めかと思うと妙な感慨深さがあった。いずれにせよ、今年で見納めにはなったのだろうけれども。
文学部の授業でよく使われていた教室には、当たり前だが俺以外の姿は一切無くガランとしていた。
「何しとるんやろ、俺……」
自問自答を声に出してみる。別にこの場所にそこまで思い入れがある訳でも無かったのに、何故ここへ来てしまったのだろう。自分で意識していた以上に、俺はここに――東大に執着していたのだろうか。
小惑星の衝突まであとどのぐらいだったろう。いずれにせよ、今から他の場所へ移動するのも面倒だ。俺はこの場所で最後の瞬間を迎える事にしよう。静かに、一人で。
そう思った次の瞬間、バタバタと賑やかな足音が耳に入ってきた。いや、まさか、そんな筈は――。
「川上さん!」
ああ、何て事だろう。よりにもよって、今、一番会いたくない人の声に名前を呼ばれるなんて。
「Aさん……」
「やっと見つけた」
教室へ駆け込んできた彼女は、肩で息を切らしながらもとびきりの笑顔を浮かべた。どうして俺の居場所が分かったのだろう。彼女の嗅覚は警察犬並みだ。
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奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時