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4:優しい嘘つき(fkr) ページ16

 いつもの部屋、いつものソファ、いつものカップにいつものコーヒーを淹れて。何もかもいつも通りな俺たちだけれど、その心境だけはいつも通りなんかじゃなかった。


「拳くん、落ち着いてるね」
「そうでもないよ」
「嘘。凄く落ち着いてる。いつもと全然変わらないし」


 今年の夏から彼女と共に暮らし始めたこの部屋だけれど、一年目の更新を迎える前に全て終わってしまうようだった。


 今日で世界は終わってしまう。この先に続く未来は突如としてその道を閉ざされてしまった。あまりにも呆気なく、あっさりと、簡単に。


「……死ぬ時って痛いのかな」


 ぽつりと零すように呟かれた彼女の声は、酷く弱々しく頼りないものだった。


「A……」
「苦しいのかな」
「…………」
「……ごめんね。こんな事言ってもどうしようもないのにね。……でも、やっぱり怖いよ」


 普段は割とサバサバしていて、見た目も勝気な雰囲気の彼女だけれど、実際はとても繊細で傷付き易い事を俺は知っている。そういう所も含めて愛しいと、守ってあげたいと思っているのだが、残念ながら今回だけはどうにもならないようだった。


 彼女の肩を抱き寄せて強く包み込む。どんな言葉を掛けても、何の慰めにもならない事は分かっているつもりだが、何かを言わずにはいられなかった。


「……大丈夫。大丈夫だから」


 何が大丈夫なものか。嘘つきめ。
 だけど俺は案外巧みなんだ。こういう時の嘘は特に。


「大丈夫って何が?」
「ぶつかるものはぶつかるけど、日本は被害を免れるかも知れないって話」
「聞いた事無いよ」
「そりゃおおっぴらには言ってないから」


 即興で考えた話を尤もらしく話していく。俺の周囲では特に伊沢が得意とする手法だけれど、大体こういう類いの事は俺も得意な方だった。


「特定の地域だけ犠牲になるって予め分かってると、暴動やら逃げようと出国する人やらでとんでもない事になるから。上の方が情報統制してるって」
「なんか眉唾だなぁ」


 信じられないよ、と続けて彼女が苦笑する。やっぱり少々苦しい言い訳だったろうか。

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奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時

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