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「そういえばAさんってお幾つなんですか? あ、差し支えなければでいいんですけど」
女性相手にすみません――と彼が付け足す。
「私、九十二年生まれですよ」
「あー、じゃあ俺の方が二つ下なんですね」
「そうですね。伊沢さんの周りの方だと、田村さんが同い年になるので」
「田村とかぁ〜」
伊沢くんは何故かぼやくように田村さんの名前を呼び、ソファの背凭れに身体を預けた。何か考えるように軽く顎を擦った後、身を起こして私の顔を見つめてくる。
「なら、もっと砕けてくれてもいいのに。俺のが年下なんですから、楽にしてくださいよ。呼び方とかも」
「砕けて、って……うーん」
いきなり砕けてくれと言われてもなかなか難しいものだ。こうして会うのは三回目だし、何なら初めて会った時は会話するような状況でもなかったし。
でも、呼び方ならすぐに対応出来るような気がした。だって元々、私は彼の事を、
「じゃあ……伊沢くん?」
と呼んでいたのだから。
「お、いいっすね」
「いいの?」
「とても」
上機嫌な様子で笑いながら、伊沢くんがグラスに口をつける。彼がいいと言うのならそう呼ばせて貰うが、こちらだけ一方的に砕けるのも如何なものだろうか。
「伊沢くんも砕けてくれていいんだよ。こう、呼び方とか」
彼に言われた事をそっくりそのまま返してみると、「いやぁ」という言葉と共に苦笑が返ってきた。
「いきなりは難しいっすよ」
「えっ、人に要求しといて自分はそれ?」
「だって俺、年下だし」
「年下だからって……それこそ田村さんには凄く砕けてるでしょう。二つ上なのに」
「田村は十代からの知り合いだし、年上だけどクイズプレーヤーとしてはあいつの方が後輩なんで。開成クイ研で田村より先に入部してた奴らは皆、田村の事呼び捨てだったし。それにAさんは……、あ」
何か思いついたように言葉を途中で止めた彼は、私の顔を見て精巧な微笑を浮かべた。
「Aさんは、俺の恩人でしょ」
ドキッとした。ここ数年感じた事の無かった、ときめきという感情の存在を思い出す。
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奈都(プロフ) - Komiさん» コメントありがとうございます。トロイメライが出来上がってる二人の話なので、順番が逆になってしまうのですが、あの関係になるまでにこんな流れがあったんだな、という感じでお読み頂ければ幸いです。出来るだけマメに更新していくので是非今後もお願いします…! (2019年9月14日 16時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
Komi(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます!トロイメライの頃からizwさんの2人が大好きで、始まりのストーリーが読めるのがとても嬉しいです^^毎日更新を楽しみに生活しています笑これからも応援しています!! (2019年9月14日 5時) (レス) id: 31bd00c83a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2019年8月11日 10時