【QK】Gravity

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「……お。マジであった」


　昨夜、Aさんに教えて貰ったばかりの弁当屋の前。現在時刻は十一時。まだ一般的な昼休憩の時間前とあって、店内に他の客は居ない。
　自動ドアを潜り店内に入ると、いらっしゃいませと店員の威勢の良い声が飛んできた。


「えーと……チキン南蛮、おかずのみで一つ」


　最近は軽い糖質制限を試みているので、白米抜きのメニューを注文する。年末に折れた骨も少しずつ癒えてきて、そろそろフットサルにも復帰したいと思う今日この頃。意識して身体を絞っているのだが、なかなか目指す体型には辿り着けない。


　店内の椅子に腰を下ろしてスマートフォンを取り出す。何となくAさんとのトーク履歴を開くと、昨晩彼女から届いた礼の言葉と、それに対する自分の返信が目に入った。早速マカロンを一つ食べてみたがとても美味しかった、との事だ。あの店のマカロンは女性人気が高い、と教えてくれた山森さんに感謝しなければ。


　昨夜は有意義な時間を過ごせたと思う。普段あまり話を聞けない層のリサーチも出来たし、色々と近所の耳寄り情報も聞けた。


　正直な所、お礼だけしてすぐに解散になるかと思っていたのだが、結局二時間以上も話し続けてしまった。俺が喋り過ぎていたような気もするのだが、何せAさんが話を引き出すのが上手いのだ。


　あまりに上手に相槌を打ってくれるものだから、一週間前病院で保険証を見つけるのに苦労したなんてどうでもいい話までしてしまった。本当にどうでも良すぎた上に、ほぼ初対面も同然の人に話す内容ではないが、それでも興味深そうに聞いてくれたので、つい止まらなくなってしまったのだ。


　倒れかけていた俺を助けてくれたから、という訳ではないが、何となく波長が合うような気がした。でなければ、共通の趣味も無い女性と、仕事でもなく酒も無いのに二時間もサシで話していられない。友人であっても厳しいのに。


　また話したいなと思う。特に用事も無いので難しいかも知れないけれど。この辺りに住んでいると言っていたし、もしかすると何処かで会う事もあるだろうか。

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