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 彼女に比べると俺の支度は驚くほど短い時間で終わった。服を着替えて髪をセットして貰い、軽く肌を塗れば花婿の出来上がりだ。その後チャペルに移動して挙式のリハーサルを済ませ、写真撮影に親族紹介にと次々にこなしている内に、慌ただしく時間が過ぎていった。気が付けばもう、挙式開始時刻まで五分といった所だ。


 改めてブライズルームを出た俺たちは、チャペル前の閉じた扉の前で入場の準備を始めた。


 入場は新郎が先なので、新婦はチャペル内からは死角になる位置での待機だ。随分と歩きづらそうなドレス姿だが、少しずつ慣れてはきたようだった。一時間前よりも所作が若干軽やかに見えなくもない。それでもさっき「明日は確実に筋肉痛だよこれ」と唸っていたので、今日、帰宅時にドラッグストアで筋肉痛対策の物を何か買っておいた方がいいかも知れない。


「はー……。ヤバい、めっちゃ緊張する」


 胸元に手を当てた彼女が深呼吸している。強張った面持ちで呟くその横顔も綺麗だな、と少し見惚れていると、


「拳くん、ちょっとだけ」


 と言った彼女が、こちらに手を伸ばしてきた。指先をそっと掴まれ、そのまま軽く小指を絡め合う。レース刺繍の施された手袋に包まれた細い指が、緊張で微かに震えているのが感じ取れた。


「A、震えてる」
「だから緊張してるって言ったじゃん」
「そうだね。まあ俺も緊張してるけど」
「人前に立つの慣れてるのに?」
「だって、流石に結婚式の主役は初めての経験だから」
「それもそっか」


 俺の言葉に納得した様子の彼女はカラリと笑う。すぐそこにお義父さんやお義母さんが居るのに、こんなイチャついてる場合かと思いつつも、今は彼女の身体から緊張を吸い取る方が重要だ。


「堂々として。こんな綺麗な花嫁はこの世の何処探しても他に居ない、って皆に思わせてやろう」
「……うん」
「大丈夫。今日のAは世界で一番可愛いよ」


 先程、ブライズルームで彼女の姿を見た時と同じ言葉をもう一度繰り返す。ぱちくりと瞬いた彼女が、恥ずかしそうにくしゃりと笑った。



 

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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時

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