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さて、そろそろ自分の準備の時間だとブライズルームに向かうと、彼女はメイクさんに最後の仕上げであるウェディングベールを着けて貰っている所だった。ふわりと軽い空気感のベールは、縁に細かなレースの装飾が施されている。パールで花を模した髪飾りを留め、花嫁の支度は完了したようだ。後ろから覗き込むようにすると、座ったままの彼女と鏡台越しに目が合った。そのまま柔らかく微笑む様子にドキリとする。
「どう?」
鏡越しに笑っていた彼女が、今度はこちらを振り向いた。自分で言うのも何だが、俺は女性の服や持ち物を褒めるのは割と得意な方だと思う。そういう所は昔からそつなくこなしてきた。彼女にだって、普段から何度も「可愛い」という褒め言葉を繰り返してきた。けれども。
「おお〜……」
自分の語彙力が一気にゼロになるのを感じた。本当に感動すると人は言葉を失くすという事を、正に今、自分の身でもって体感する。しかしそんな俺の感嘆の声が曖昧に消えていくのを聞いて、彼女は若干呆れたような顔をした。
「ちょっと拳くん、それだけ?」
「いや……綺麗、です。うん」
「もう一声」
「世界で一番可愛い」
「やった!」
若干強引に引き出された褒め言葉を聞いた彼女は、紅を差した艶やかな唇に弧を描く。
前撮りの時のドレスはスタイリッシュなイメージがあったが、今日のドレスはボリュームがあり、絵本に出てくるお姫様のようだった。正直な所、衣装選びの時はマーメイドラインのドレスだけでいいのではと思っていたが、こうしててっぺんから爪先まで完璧になった姿を見ると、両方着る事が出来て良かったのだと思う。
「じゃあ次は拳くんの準備だね。世界で一番イケメンになって貰わなきゃ!」
基本的に地味目で何処にでも居そうな理系男子、という見た目である自覚があるのだが、そんな俺に対してなかなか荷が重い事を言う。でもまあ確かに彼女が世界で一番可愛いのなら、隣に並ぶ俺も今日は世界一のイケメンだと思うぐらいの気概が無いといけないのかも知れない。
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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時