123話 ページ29
「キクはさあ、」
今後の話をして、たわいも無い話をして、互いの祖国の話をしていた時。そう口火を切ったフェリシアーノには先程までの害のなさがまるきり抜けてしまっていた。ぴたりと会話が止んだのはルートヴィッヒでさえも口を噤んで訝しげにフェリシアーノを窺ったからだ。どうやら幼少の砌より付き合いのある二人らしかったから、菊には余計に口元を変わらず笑わせただけの彼が随分と怖く見えた。
なんでしょう、と出てきた声は警戒心を隠しきれない。彼らと話す時間は楽しく未来もあり、それからなによりも昔馴染みのような落ち着きが感じられた。自分のこの先の発言次第で全てが無に帰すのだ、と一瞬で悟ってしまうほどには菊には彼が先程までとは別人に見えたし、それが勿体無いと思うだけの感情も僅かだが芽生えつつあった。息を呑んで喉が上下する。
「知ってる?今、うちの組は本国で抗争中なの。敵対組織が最近きな臭くてね、先に潰しておこうって。」
「…うちの武器はそのためのものだとは聞いておりましたが。」
「そう。キクのお陰で今のところは上手くいってるみたい。ありがとう。」
「…それはそれは。」
一応謙遜の態度を見せるが、明らかにフェリシアーノの本意がそこには無いのだろうことはすぐに分かる。しかしまさかここに組織のボスと幹部が居る状態で本国が交戦中というのには驚いた。よほど仲間を信頼しているらしいが、今本田の家に来ることと攻勢を天秤にかけた時、重要なのは明らかに攻勢の方だろう。普通に考えればそのはずだ。相手目線からしてもそんなにうちとの話が大きなものであるとも思えない。疑問は菊の中にも生まれていく。
果たして何が言いたいのだ、この男。
フェリシアーノに動じた様子は無かったが、彼は不意に羽織るスーツの内ポケットに手を入れると、そのまま一枚の紙きれを菊の前へと差し出した。どうやら写真らしい。恐る恐る手に取ってぎょっとする。
これは、この女性は、まさか。
「数日前にうちに何処かのスパイが潜り込んでね?惜しいことに逃がしちゃったんだけどさ、その子はホンダサクラって名乗ってた。」
「…はあ、」
「単刀直入に聞くよ。この子はキクのところの子?」
鮮明ではないその画像には長い髪を持つ小さな女性が写っている。しかしそのドレスも髪もそこから覗く体つきでさえも、菊には見覚えがあった。
何をやっているんだ、と呆れ半分の困惑が頭痛を引き起こす。
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時