121話 ページ26
(ああ、本当に最悪)
片付けに向かうとフランシスと他に見知った顔が二人いて、ああ他の手伝いとは彼らだったのかと納得すると同時に息巻いていた気持ちが失せていく。それは相手も同じで、片方にAのことを聞かれたので休憩中とだけ答えておいた。警戒の残る奴らに詳しく教えてやる義理もなかったしね。
それから大量に重なった皿の山を全員で汗までかきながら捌いて、フロアの掃除をして、フランシスからサインを貰って…それだけで1時間ぐらいかかったのだ。ローデリヒなんて頭から火を噴きそうなくらいぽこぽこと怒っていて、どうやら慣れない作業や汚れに対しての怒りが抑えられないようだった。
頼まれていたことが全部終わって、俺はそれからすぐにAの元に向かいたかったんだ。でもアントーニョに引き止められてしまった。向こうは俺の急いでいる雰囲気がわかってたはずなんだ。なのにてんで身のない話をしばらくうだうだと続けられて、俺のいらいらが頂点に達しそうになった時に、ようやく解放してもらった。本当に無駄話だった。今年のトマトの状態の話なんて今することかい?
そうしてようやく走ってAのいる部屋へと来れたわけだ。
待たせてしまったから彼が怒っていることも想定しつつ、さっさとここから帰りたい気持ちでいっぱいになる。そして勢いそのまま、扉を開けた。
「A、ようやく終わったから一緒に帰るんだぞ!」
ばあん、と遠慮のない音がただ響く。フランシスがもしこの場にいたならばきっと女の子みたいに怒っていただろう。
だけど、俺の期待には反して、望んだ声はいつまで経っても聞こえてこなかった。
「…A?」
不思議に思ってソファを見やる。そこには既に誰もおらず、空っぽになったペットボトルが机の上に一つ置いてあるだけだった。部屋を見渡す。人が隠れている様子はない。
変だな、とは思った。だけど彼が俺を置いて先に帰ってしまった可能性が有り得たから、違和感と憤慨の念を覚えつつもひとまず俺も帰ることにしたのだ。
ばかA。片付けのことも君の代理を果たしたことも自慢したかったのに。女の子たちに囲まれて疲れてしまったから、やっぱりAと一緒にいるのが楽だと訴えて、それから愚痴や今日あった出来事を話したかった。それなのに、心配しているって言ったのに先に帰るなんてありえない。
そして俺は一晩中事務所で彼の帰りを待っていた。
結局、その日Aは帰ってはこなかったけれど。
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時