27話 ページ29
「………また、逃げられた。」
吹雪が外でごうごうと音を立てていた。
家の中だというのに凍えるような寒さのそこは、既にもぬけの殻となっている。つい半年ほど前はここにとある事務所があったはずなのだが、今はもう人の気配もない。きっと寒さの原因も、あったはずの温もりが消えたからだ。
がたがた、と家が揺れる。あとほんの少し風が強ければ、きっと吹き飛んでしまうだろう。
「た、確かにここにあの人はいたはずなんですけど、多分僕らがちんたらしてる間にっ」
「うわああああ、ライヴィス!?なんてこと言おうと、」
「ちょっと君たち黙っててくれるかな?」
「ひいっ!?」
建物の中には3人の人間がいる。部屋の隅で寄り添う2人の内、1人はびくびくと身体を震わせていて、もう1人はそんな彼と身を寄せ合うようにして部屋の中心に立つ男を遠巻きに見ていた。
中央に佇む男はたいそう機嫌が悪かった。それはこの家の持ち主に会いに来たのに、その人は既に姿を消していたからで、そしてさらに言えば、それはもう何度目かの同じ状況であるからだ。
ここの家主は探偵を生業とする男であった。出会った当初は数回彼と顔を合わせることが出来ていたが、もうここ数年は会いに行く度に忽然と消えていることがほとんどだ。居場所を掴んでは消え、掴んでは消える。
「…どうして、なんだろうね。」
彼が自分から逃げていると気付いたのはいつだっただろうか。最初は信じたくはなくて、ただの偶然と片付けていたけれど、もうそんなことも言えないくらい偶然は重なってしまった。
僕は、君が。
君の力が、欲しいんだ。
そう告げた日、そう告げた場所、そう告げた時の君の顔。
最後に君と会った日のその全てを僕は覚えている。何が何でも手に入れたくて、少し無理をしてしまった。君は確かこう答えたんだ。「帰ってくれ。」って。
例えあれが拒否を示す言葉でも、僕は絶対に諦めたりはしない。どんな手段を使ったって君を手に入れる。絶対に。
僕らが初めて出会った日、僕が君に頼んだ一度きりのお願いとそれは正反対だったけれど、何故か妙にしっくりと心に馴染んだ。
ぱきり、と音がする。
つい手に込めた力のせいで、手にしていた花束の中の向日葵や花々たちはひしゃげて花びらを散らしていた。
「何処にいるの、Aくん。」
会いたいよ、君に。
それは極寒の地の中、ぽつりとたった1つ建つ家で誰にも届かずに消えた。
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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時