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14話 ページ16

なんだろうか、これは。

微かに現実に引き戻された意識に辛うじて目を開ける。そこには薄暗く冷たい世界と土とゴミの臭い。一瞬顔を顰めた後に、自分が昨晩自ら路地裏に倒れ込むようにして眠りについたことを思い出す。職業柄道で眠ることを嫌だとは思わないが、ただ一人の兄にこんなところを見られたならば、それこそ顔の形が変わるまで怒られぼこぼこにされるのは間違いなかった。

時間を確認したくて身体を起こそうと身をよじると、俺はそこで初めて気付くものがある。

人がいる。
しかも俺の目の前、仁王立ちでこちらを見つめる男が。
瞬間俺の意識は一気に完全なる覚醒へと運ばれて、目は大きく見開かれた。どう見ても怪しい状況で咄嗟に相手の呼吸を確認したが、興奮している様子はない。だが真っ直ぐ見据えられた相手の目にはほの暗く底冷えする何かを感じる。どうやら路地裏で眠る俺を助けようとしてくれた人間ではないようだ。

寝たふりは得策ではない。周囲へ視線を僅かに動かしてみると、俺の金の山がない。そうしてやっと相手の両手にそれぞれ俺の荷物とキラリと光る何かが握られている事を理解した。
大金を持ったまま眠るリスクは承知だったが、正直自分は金を持っていることがバレるような身なりでは無かった。単に大荷物だと思って狙っているにしてもこの街にはそんな人間ごまんといる。その中から俺が偶然狙われたなら可哀想としか言えないが、俺の推測からするにはこいつは金狙いで、あの酒場にいた人間である可能性が高い。
路地裏といえども俺が日中街を歩きながらに見つけた寝床だ。滅多に誰もこないような場所だからここで眠ったわけで。

この人間は明らかに俺を狙ってきている。少なくともあの酒場から。普通の物盗りがわざわざこんな場所で観光客を襲うはずもない。つまりはそういうことだ。

相手は俺が起きていることに気付いている。暗がりで顔はよくわからないものの、月明かりに照らされてらんらんと光る瞳は俺を確実に捉えていた。
そして俺も相手の握るそれがナイフであることは分かっている。

緊張が走っていた。
俺は今、殺されそうになっている。
後退りしようと土を掴む。じゃりと音がした。一瞬の隙さえあればどうにかなりそうだと考える。

だが次の瞬間、相手はナイフを振り上げた。

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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時

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