【男主】unità difettoso！【APH】

10話 ページ12

｢ふっふふーん。｣



ちゃりんちゃりん。
袋いっぱいに詰め込まれたそれに俺はかなりのご満悦で、鼻歌混じりにスキップで街を歩く。俺が跳ねるたび、中でそれらはぶつかり合って金属音を鳴らしていた。




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あの日バーを出た後の俺の手の中には僅かな金しか残っていなかった。羽目を外したおかげで交通費すら危うかったのだ。
マスターとアーサーさんとの時間は確かに楽しいものではあったが、それとこれとは話が別である。夢は覚めてしまえばあっという間に現実だ。

この異国の地で働くにあたり、渡って三ヶ月は通行手形の提出が必要になる。自営業を立ちあげるのにも同じだ。
俺がこちらに来るために取得した通行手形。様々な手続きがあるらしいが、詳しいことは知らない。何故なら例の西洋人の友人がが今こちらにいると聞いたから、その人に協力を仰いで申請を丸投げしたからである。ちなみにその人は俺と入れ違いでまた東の方に戻ったらしい(世界を飛び回りながらその人は商売をしている)。

作ってもらった手形、そして身分証。俺の存在を証明する全ては偽造品だ。昔から、それこそ探偵をやっていた時から変わっていない。小さい頃に俺の兄貴分が用意した様々な名前や肩書きを、俺は今も変わらず使っていた。探偵をやるにしたって何かと隠しておいた方が都合が良いのだ。それは認める。

だが俺はここに来てまでそんな隠れてこそこそするような真似はしたくなかった。あまり大っぴらにはできないが、多少真っ当にはしていたい。身分が真っ黒であろうとそこは揺らがせたくはなかった。

当分の飯と宿の検討はある程度つけなければならない。そして俺の存在は今はまだ隠しさなければいけない。そんな時に偽の手形を持ってこの地を出歩くのはあまりにもリスクがある。
俺が何かした訳ではないけれど、役所や警察を伝ってあの人に居場所が伝わってしまうのは厄介だった。

幸い三ヶ月過ぎれば多少は自由にできるのだ。
それまでは大人しく、どうしかして凌がなければ。

その時、ぐぅ、と腹の音が鳴った。
腹が減った。さっきあれだけお酒を飲んで美味しいご飯を食べたのに。

一瞬歪んだ視界、揺らめいた足元。
「あ、」と思った時にはもう遅く、俺の身体はそのまま何かとぶつかってしまったのだ。



「す、すみませ…」
「てめぇ、痛えじゃねえか。」



ああ、神様は非情である。

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