君で溢れる【梅原裕一郎】

初恋相手 ページ18

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「何泣いてんの」
『だって…っ、怖かったんだもん…』

泣いてしまったのがバレたらしい。そこは普通に突っ込まれた。外に出られて本当に安心した。このままどっか怪しい所に連れ込まれて何かされたらお嫁にいけないところだった。

『あれ…よっちゃんは…』
「そんなの嘘だよ。そうでもしなきゃあの人離さなかったと思うし」
『そっか…梅くんありがとう…』
「ん、分かったからそんな泣きそうな顔すんな」

そう言って頭をわしゃわしゃ撫でてくれた。さっき江口さんがしてくれたのとは違う温かさを感じた。余計に涙が止まらない。

「こりゃダメだな。タクシー拾って帰るか。途中で降ろしてもらうからそれでいい？」
『まって梅くん…』
「ん、なに」

タクシーを探しに歩き出そうとした梅くんの手を握った。なんか、こうしないといけないと思って。
でもこの先がどうしたらいいか分からなくて、頭が真っ白。

「ふっ、なんだよ」
『ごめん、何も無い…帰る…』
「分かった。この時間タクシー捕まんのかな」
『どうだろう、もう歩いて帰るかな』
「それはダルい」

タクシー乗り場までとりあえず歩いて、空車を見つけたからそれに乗った。
梅くんが私のお家の住所を伝えてくれて車が発進した。車内では無言のまま。

数分後に着いて私だけ降りるからその分の料金を梅くんに渡そうと思ったら「俺も降りる」と言って払ってくれた。

『梅くん、』
「ヨシキにさっきの事話そうと思って」
『ありがとう…ごめん』
「自分では話しづらいでしょ」
『うん…あの、タクシー』
「いいよ。大丈夫」
『でも…』
「いいって言ってんだろーが」
『いてっ！』

ゴネたら力いっぱいのデコピンをお見舞いされた。
ただいま、と部屋に入るとよっちゃんはVチェックをしていた。

「あれ、梅じゃん。どうした？」
「暇だったし遊びに来た。打ち上げつまんねーし」
「ははっ、またそういうこと言う」
「煙草吸ってた人いたし最悪だよ」
「まじで？A、風呂はいってきな。さっき沸いたから」
『うん…ありがとう、入ってくるね』

梅くんはこういうのに誘導するのが本当に上手い。
何も勘づかれることなくお風呂場へ行けた。

湯船に浸かって考えるのはずっと梅くんのこと。
もう自分でもびっくりするくらい、不謹慎かもしれないけど今日のことで好きという気持ちが抑えきれなくなった。好きすぎて辛いってこういうことなんだ。こんな気持ち初めて知った。

これは間違いなく梅くんが私にとっての初恋相手だ。

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