何万回だって、「君が好き」２

おまけ。プロローグ的な。１ ページ25

こちらは、
本編の４年前のお話。



赤side


デビューまで、
もう間もない。


時間のない中、
きちきちのスケジュールで、
目まぐるしく毎日が過ぎ去る。


撮影が終わって、
ホテルに帰る移動車の中。

みんな疲れ切ってて、言葉もないまんま。


俺もおんなじで、
身体はくたくたやのに、

相変わらず一人だけ眠られへん。


実は、ここ２ケ月、

デビューが正式に決定してから、
ずっとそうやねん。


ほんまに長い間、
デビューを目標にして、

喉から手が出る程に望んでたはずやのに。


寝られへんのに、
仕事はあほ程詰め込まれてて、
いつも笑顔でこなさなあかんかって。


あかん状態なんは、
自分が一番分かってるけど、
どうしようもないねん。


あいつがセンター？
なんでなん？


世間の声も、
嫌でも耳に入ってきて、

メンバーもほんまはそう思てんちゃうかなって、
くだらんこと不安なったり。

悪循環が続いてる。


「しげ、寝られへん？」


隣で、神ちゃんが聞いてくれた。


「ああ、大丈夫。寝るよ」


「しげ、ちょっとだけええ？」


神ちゃんが声潜めて、
俺の耳に小さい口、近付けるもんやから。

心臓、ばっくばくなるやん。


「ん？何？」


もしかして、怒られんのかも。

何回かダンスの振り間違えてしもたから。

みんなも疲れてんのに・・・


「２つしかないからな。
みんなには内緒やで？」


神ちゃんが差し出してくれたんは、
真っ白な大福。


「どうしたん？この大福」


「さっき撮影の合間に、
気分転換したて。
ちょっと抜けさせてもろてん。
偶然見つけたお店で買うてんけど。
残り２つやってん。
ただの大福ちゃうで？
なんと苺大福やで？」


得意げに言う神ちゃんが、めちゃめちゃ可愛ええ。


「ありがとう」


なんか泣きそうで、
それしか言われへんかった。


苺大福は甘酸っぱくて、
余計に泣きたくなる。


「苺大福ってこんなに美味かったっけ。
感動して泣けるわ」


誤魔化したら、神ちゃんは、


「なあ？めっちゃ美味いよな！」


嬉しそうに、にこにこ笑ってるねん。


俺が一人勝手に、


その笑顔にも、
この肩が触れ合いそうな距離にも、

胸がきゅうって締め付けられてんのなんか、


神ちゃんは、知る由もないねやろな。

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