439 ページ40
顔の横で手をつく善逸の顔がまた近づいてきて、Aの頬、耳、首と色んな所にキスをしてくる。
唇が見つからない訳ではなく、Aを感じようとするようなキスに何故だかとても切なくなった。
彼の首に自分の腕を巻き付けたAは琥珀色の瞳を真っ直ぐ見つめながら心の中で言った。
(好き、大好き、ずっと一緒にいたい)
普段なら恥ずかしくて言えないような言葉が心の中でなら伝えられた。
涙を流しながら思いを伝えるAに善逸は優しく微笑みながら顔を近づけた。
繋がった唇から『俺もだよ』と言われたような気がした。
翌日、Aと善逸は最寄りの町にいた。
昨夜降っていた雪は町の方でも降っていたらしく、雪化粧をした町は昨日とは違う町に見えた。
日が暮れ始めた頃に町に到着したA達は少し早めの夕食を食べながら愈史郎を待つ事にした。
適当な定食屋に入り、二人揃って天ぷらうどんを注文し、目が見えない善逸にAがうどんを食べさせる。
周りしたら変な光景だろう。
火傷しないように冷ましたうどんを善逸にせっせと食べさせながら自分のうどんを食べるAを周りの客は不思議そうに見ていた。
時間を掛けてうどんを完食すると店を出る頃には辺りはもう暗かった。
もう大丈夫だろうと人気が少ない路地に向かったAは愈史郎の札を自分と善逸に貼り付ける。
すると既に移動中の愈史郎のものらしき視点が見えた。
分かりやすい場所を求めて大通りに移動し、目立つ建物を探す。
この辺りで一番大きな建物を見つけたAはその建物の前で待つ事にした。
善逸と共に愈史郎が来るのを待つ事一時間ほどして、愈史郎は姿を現した。
「揃いも揃って鬼の血鬼術にやられるとはな」
呆れたように言った愈史郎に聞こえないAはこてんと首を傾げた。
「すみません、ご迷惑をお掛けして」
わざわざ迎えに来てくれた愈史郎に善逸が謝罪すると、チラッと善逸を見た愈史郎はフンッと鼻で笑った。
「全くだ。さっさと行くぞ。珠世様を長く待たせる訳にいかない」
刺々しい言い方をしながらも愈史郎は善逸の腕を掴み、軽々と善逸を背負った。
突然の浮遊感に善逸は驚きながら愈史郎の肩を掴む。
それから愈史郎はAの方へと視線を向けると「行・く・ぞ」とゆっくり言った。
聞こえないのを考慮したその言葉はしっかりAに届き、頷いた。
善逸を背負いながら走る愈史郎の後をAが追い、三人は珠世の元へと向かった。

16人がお気に入り

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:marukoro | 作成日時:2025年2月4日 20時