二十一 ページ22
もっとも、同級生がそういう風に言っていることを梨井奈が気にかける様子はない。
勝手に言いたいなら言っとけ、という風な態度をとる。
普段梨井奈は無口なのだが、
「望さんの自伝小説、よく読む。人間の、生々しさ、感じる」
教室の片隅で黙っている梨井奈を普段から見ている藤崎さんでも驚いたみたいだ。
その証拠に、今は梨井奈の肩をつかんで何か言いながらゆすっている。
「菜々、どいて」
「え、いやだってあの、えっとあの梨井奈が」
驚いた、なんてレベルじゃない。通り越して混乱している。
「紗月、止めよ?」
さくらが近づいていき、藤崎さんを引っぺがした。
そして梨井奈に
「梨井奈ちゃんは、本が好きなんだね。好きな作家さんは誰?」
なんて話しかけている。
梨井奈は
「桐原望さん」
と短く返事をして、またわたしを気遣うように見る。
「紗月の書くものも気になる。望さんも本当は有名になるだけの実力はあるけど、何か足りない。
紗月は……」
そこで一度、躊躇うように梨井奈は息を吸う。
しかし、
「まだ、言わない」
頭の中でクエスチョンマークが飛び交うわたしを置いて、梨井奈はどこかに行ってしまった。
……何だったんだろう?
梨井奈の行動の意味がいまいちピンと来ないまま、図書室で考えていると、下校時間を知らせる
チャイムが空しく校舎にに響き渡る。
他人の行動の意図を探ろうとしたところで、ヒントがないとわからない。
よし、本屋さんに行ってみよう。
思い立ったが吉日、というわけではないがわたしは思いついたらすぐに行動に移す。
今日もいつもと同じように、商店街の一角にある本屋さんへと足を向ける。
本屋さんの名前は六花書店。
六花、というのが何を示すのかはよくわからないけれど、多分店長の好みだろう。
「いらっしゃいませー」
わたしはいつもは必ず見る文庫本の列をスルーし、自伝小説コーナーに直行した。
自伝的小説はフィクションだから、自分の体験をもとにしているものの、実際に取った行動とは
違う部分ももちろんある。
私小説は自分の行動、思いがそのままつづられているものが多い。
叔父さんの小説は私小説だ。
六花書店ではマイナー作家さんも取り扱っている。
『仮面』『仮想現実』『答えのない問い』……
叔父さんの書いた小説も、いくつか並べてあった。
梨井奈に教えてもらった『偽物と本物の違い』と『仮面』を買うことにし、
それを手に取ったその時、後ろから声がした。
「き、君。その本を、どうして?」
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うたは(プロフ) - 陰月。さん» わざわざ返信ありがとうございます。ううん、なんでしょう。私からすると多いなあという印象なのですが、陰月。さんが書いていて心地よいならこのままでも、と思います。指摘した身だというのに申し訳ございません。これからの御活躍お祈りしています。 (2019年2月17日 17時) (レス) id: 14b840c6a0 (このIDを非表示/違反報告)
陰月。(プロフ) - うたはさん» 今更の返信すみません。やはり開業が多い方が読みやすいでしょうか?少し多めにしてみます。わざわざありがとうございます。 (2019年2月17日 11時) (レス) id: 83a189451f (このIDを非表示/違反報告)
うたは(プロフ) - はじめまして。このお話好きです。が、すみません、文の途中での改行が些か読みづらく感じました。これからも応援してます。頑張ってください。 (2019年1月20日 23時) (レス) id: 87a0c9cf89 (このIDを非表示/違反報告)
陰月。(プロフ) - コノハ【心葉】さん» コメントありがとうございます<m(__)m>気づくのが遅くなってしまいすみません(-_-;)夢が小説家、とはっきりしていていいと思います。 (2018年12月29日 19時) (レス) id: 83a189451f (このIDを非表示/違反報告)
コノハ【心葉】 - 私の夢が小説家なので、なんか、元気付けられました。 (2018年11月14日 17時) (レス) id: bac5683ead (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:陰月。 | 作成日時:2018年3月22日 16時