私は普通を知らない【ヒ口アカ】【文ス卜】

No.116 正義と悪 ページ28

「──おい、それでもヒーロー志望かよ！」
「女の子いたぶって遊んでんじゃねえよ！」

　スタジアムに戻ってきた刹那、観客席から罵声が飛んできた。プロヒーロー等が声を張り上げ、批判的な言葉を投げかける。

「何だ……？」

　A達は、C組の最後列へと腰を下ろす。何が何だか分からない。心操が戸惑ったようにブーイングが向けられているステージへと目を向ける。リカバリーガールが言っていた通り、麗日と爆豪が対戦していた。

　しかし、一目見たAでも、戦況は火を見るより明らかであった。

　必死に対戦相手へと向かっていく麗日と、それを完璧に交わす爆豪。後者の方がどう見ても優勢だった。これでは“嬲っている”と感じる者も多いだろう。

　爆豪の粗暴な言葉遣いも相乗効果をもたらしている筈だ。
　
(それにしても……気づいてないのか)

　プロヒーローを名乗っている割には、何も周りが見えていないのだなと、Aは心底落胆した。

　“ヒーロー”で飽和している世の中。数が多くなるほど質は落ちる。実際、手練れのヴィランと張り合えるヒーローは少数だ。

　そして、その中の誰しもが、ヒーローであるとは限らない。汚い感情をオブラートで包み、偽善者として生きている。

　ヒーローとヴィランを隔つものなど、対して変わらない。綺麗な手をした彼らなら、「英雄(ヒーロー)は正義で、敵は悪だ」と言う。

　しかし、自己の利益ばかり考えるヒーローは本物なのだろうか。仲間の為に、人の為に命を懸けるヴィランは、本当に“悪”なのだろうか。ただ分類上立場が違うだけだ。

　敵にだって、人を殺す理由はある。守りたかったものが、人がいた。認めて欲しかった。“本当”の自分を見つめて欲しかった。しかし、その想いは絶望と共に散った。

　あの時もし、誰か手を差し伸べてくれてたら──。

『──、危ない！』

　──何もかもが、誰もが、幸せで平和な世界に建っていたのかもしれない。

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