snow white〜第３章〜(inoo kei)

別れの一幕 01 ページ31

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そして明け方


鏡から抜け出た青年と
幸せな時を過ごしたお妃さまは
柔らかい褥(しとね)から抜け出しました




「涼介…？」




愛する乙女と結ばれたばかりの青年は
滑らかな肌を惜しんで手をのばします


やっと手に入れたキミを
手放したくない

そう訴える瞳に
お妃さまが微笑みかけました




「大貴…そろそろ夜が明ける…
もう、行かないと…」


「………ん。そうだね…」






名残惜しげに頭を振った青年とふたり
身支度を整え、部屋を見渡します

ここで過ごした長い時

喜びも悲しみも苦しみも
ここには全てがありました





「涼介…ここには二度と戻れない…
なのに何も持っていかないの…？」


「うん…俺はもう
一番欲しいものを持ってるから…」





それが何であるか
聞かなくてもわかりました

だってそれは
青年も同じだったからです




「行こう…涼介…」


「はい…」




二人は手を繋いだまま部屋を出て
ゆっくり静かに廊下を進みます

まだ夜明け前の城は寝静まり
鳥の声すら聞こえません



そうして程なくたどり着いた扉の前で
二人は見つめ合いました


そこは王さまの寝室の前です





「僕はここにいるよ。」


「うん…」





ふるり震えたお妃さまが扉を叩くと
中から短い返事がありました





「誰だ…こんな時間になにか…」





夜着のまま扉を押し開け
お妃さまを見た王さまは目を見張ります

暗闇の中に佇む姿が
あまりにも美しかったからです





「どう…した、山田。」





今宵、お妃さまは愛を手にしました

心から愛したひとと結ばれたことで
幸せに満ち足りた彼女は
これまでのどんな時より美しくて当然です


けれど王さまはその事を知りません

ただただ
美しさに圧倒されるだけでした




「なにか急用か？
あ、いや…用が無きゃ来ないか…ははっ…」




余りにも美しいお妃さまに
自分が寝起きのまま対峙したことが
どこか恥ずかしくなった王さま

そんな姿を見て
お妃さまの胸に愛しさが溢れました



藪くん…

キミはずっと
俺を大切にしてくれてたね…

男として、女としての愛でなくても
俺たちはたぶん愛しあってた


だから俺はこれからも
キミの幸せを願うよ…






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