JUMP徒然短編集〜BL version〜

俺が煙草を止められない理由01〜yb×hk〜 ページ20

・



ー side 藪 ー




「俺、タバコ吸ってくるね。」

「おう。」



　いつ頃からかは忘れたが、もう随分と続いている光の悪癖。
　ちょっとしたストレス解消にでもなるのか、本数は僅かだが喫煙歴は長い。



「風があったかいや…すっかり春だねぇ…」



　ベランダへ向かう窓を開けて、春の空気を深く吸い込む。
　あんな気持ち良さげに深呼吸しといてそのあとニコチン摂取するとか意味わかんねぇよな…

　とか、考えてる俺の前で窓が閉まり、見えるのは猫背気味に背中を丸めた光の姿。
　すぐに紫煙が立ち上ぼり、風に流れて溶けていく。


　いま、何を考えてるんだろーな…


　紫煙にけぶる姿を見る度に思う。

　一人手すりにもたれかかり、夜の街を見下ろすアイツの頭の中に浮かぶ相手は誰だろう。



「………はぁ。」



　ため息のあと、俺も立ち上がる。

　早くしねぇと…



　後を追って窓を開け、ベランダに出た俺を振り返る光が嬉しそうに笑った。



「ミュージカル、終わったもんね。」

「ん。」



　差し出された箱から一本抜いて口に咥えると、いつものように光の顔が近付いた。



　ジジッ…



　タバコの先と先が重なって、光の熱が俺に移る。
　ほんの数秒、俺たちの中心でタバコは900度まで燃え上がり、ふたつに別れた。




「久しぶりだね。」

「ん…」



　紫の煙が吐き出され、混ざりあって風に流され消えていく。



「いつも付き合ってくれてありがとね。」

「別に…お前に付き合ってる訳じゃないさ…」

「ふふ。嘘つき。」

「ウソじゃねーって…」



　旨くもないタバコと隣に立つ光の気配。

　もう何年も繰り返してきたそれを、俺はこの先も止める気はなかった。



「そう？それにしちゃあ藪、ひとりの時は吸わないじゃん。」

「買ってまで欲しくねーんだよ。貰いタバコで十分。」



　俺の台詞に「そんなもん？」と首を傾けた光に頷いて見せた。

　タバコが旨いと思ったことなど無いから、この言葉はウソじゃない。



「ま、そんなんなら止めたくなったらすぐ禁煙できるね。」



　そう言って、光がタバコを揉み消したから俺も続けて火を消した。



　なぁ光。
　お前には一生言わねぇ秘密が俺にはある。

　俺がタバコを吸うのは＿＿＿＿お前から、火を分けて貰いたいからだ。
　“シガレットキス”なんて呼ばれる行為を、お前としたいから。


　くだらねぇだろ？
　なぁ、光……




・

02→←『巡恋歌』あとがき

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す