19話 ページ27
「…とうとう、ですか。」
手足を動かす準備体操をしながら、紗奈は呟いた。その瞳はまっすぐ虎視眈々と鉄格子に向いている。
センラはその姿を見てとても驚いていた。
この前あんなことがあったのに、そこから会話を一回も交わしていない。
そして、紗奈は鉄格子に近づき、1本掴んだ。
メキリ、音がして、つかんでいる手から中心に花が咲くようにドロドロと溶けていく。
他の鉄格子も1本また1本溶けていって…。
最終的にすべての鉄格子がドロドロに溶けてしまった。
「早く。固まるから。」
そう手招きしてセンラを呼ぶ。
あの時に放った声ではなく1番最初の頃の警戒心を放っているときのような声。
「もうばれてるから早くここから出ないと。」
コンクリート調のドアも破壊して、廊下に出る。
次の作戦はセンラも把握していた。
「中心部は地下にはないと思うけど。」
少しの間キョロキョロと周りを見渡すと、目の前から紫姫と志麻がやってきた。
「紗奈ー!」
紫姫は別れた時から体型は変わっていなかった。
けれど何かがおかしい。
走って向かってくる紫姫を見て紗奈はセンラの腕を取り、逆方向に走り出した。
急に手を掴まれ、走り出した紗奈にセンラは一瞬混乱していたが、紗奈に合わせて走り出した。
「っは⁉ 紗奈?どしたん?」
「違う、あれは紫姫じゃない。」
まっすぐ目線を前に向けながら、紗奈は言った。
「あれは、敵だよ。紫姫はあんな猫なで声で話さない。
かといって私は人を殺せない。だから逃げるしかないから。」
近くにあった階段を駆け上り、3Fと書いてあるところで廊下に出た。
3階までを一気に上がってきたにもかかわらず、息が上がっていないことに紗奈は気づいた。
これが…契約の力。
「でー…本部ってあれやない?」
センラが指差す方向を見てみるとそこには、あからさまに大事なものが置いてあるであろう丈夫な扉に「本部」と書かれたプレートがかかってあった。
「…センラ。大丈夫?勝手に殺されないでよ?」
紗奈は信用していなさそうな目でセンラを見ると、センラもまさか、と言うように目線を返した。
「何かあったとしたって、時間稼ぎ程度やからな?」
「…特別警察官の力どれくらいなのかお手並み拝見といたしましょうか。」
そういうと紗奈はドアノブに手をかけた。
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作者名:朧月 天音 | 作成日時:2020年12月8日 21時