▽壊れた機械の裏側 ページ37
『ごめんなさい、』
高性能の小型インカムを私に渡す訳にはいかないから、彼はせめてもと通信機能が備わっているダミーのインカムを私に渡したのだ。本来ならば壊させる予定のそれを私の為に。
犠牲になった小型インカムが視界に入る。
私は後で幹部はもう一つインカムがあると聞いた。その時に安堵した自分を殴りたい。鬱先生のあの仕事方法において、片方のインカムが欠けてはいけないのだ。
だから彼は今回、任務に結果的に成功したが上手くいかなかったのだ。普段ならある筈の小型インカムが無いから碌に本部ともやり取りが出来ずにギリギリで逃げてきた。
この鉄の残った匂いがそれを物語っている。
更に、その小型インカムで音声を録音していたりだとかしたのなら尚更。見る限りでは修復は絶対に無理だ。
ut「気にせんといて。今、僕生きとるやろ。僕は一人でも大丈夫やし…少しは僕ん事信頼してくれた?」
『…私も謝りに行きます』
ut「大丈夫やって。グルちゃん達にはもう言ってあるし、…ね?」
「こんなつもりや無かったんやけど」と苦笑する彼の横に座って、私は黙って壊れた機械を見ていた。
何故彼は、彼等はここまで私の為にしているのか。多分これは憶測に過ぎなくて側から見たらただの自意識過剰なのかもしれないけど。
城までだって正直一人で帰れる自信はあったし、鬱先生からインカムを受け取らなくたって良かった。
それなのに彼は念の為、と。
何の配慮か。
『そんなに、気を遣わないでくださいよ。私の所為で貴方方に傷がつくのは違う。…私は、どこへも行きません』
壊れた機械から目を逸らして、そのまま隣にいる彼に視線を移せば青の瞳と目が合った。
ut「それ、グルッペンに言ったってや」
ぎこちない笑顔と共にそう返されては此方も言うことが無くなってしまう。
何も言えずにいる私に「お話しよ」と笑いかけてくれるあたり、きっと彼は本心で私と居てくれているのだ。警戒心もクソも無い。けれど今だけはこんな時間も悪く無いだろう。
どれだけ此方が彼等を拒もうと彼等はそれを押し除けてやってくる。そして私もまたそれに流されてしまうのだった。
その日は、もう本に手を伸ばす事なく彼と話して夜を明かした。
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しおりん(プロフ) - ふ〜ん!3コメ!続編おめでとうございます(о´∀`о)更新大変だと思います、頑張ってくださいね(*´▽`*) (2020年6月23日 23時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
さわー - ふーん、2コメ!続編おめでとーございますっ!更新楽しみにしてますっ!(ですが無理はせず!) (2020年5月26日 15時) (レス) id: 14d9286bf4 (このIDを非表示/違反報告)
ピーたー - ふーん、1コメ!続編おめでとーございます!更新待ってます! (2020年5月26日 12時) (レス) id: a37e444ba1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零 | 作成日時:2020年5月24日 14時