134話▽小さな祈り ページ38
4月の風が心地良く感じる、とある日の昼下がり。
収録の合間の休憩時間、自分はクラルスの外れの墓場に来ていた。
約1年ぶりの墓参りである。
『久しぶり』
よっこらせ、と墓前にしゃがみ込む。
これが自分のいつものスタイル。
『え、変わったって？
良く言われ……そうでもないな』
『この前父さんに会った。
あんなヤツ、こっちに置いてきて正解だよ本当！』
『このペンダント？
……友達に貰った。
そうそう、今度その子の結婚式で……』
母さんに近況報告をする。
目には見えずとも、側で聞いてくれている気がするから。
"結婚式"というワードを口から発した時、自分は汗が体中から噴き出るのを感じた。
無意識に、拳をギュッと握る。
『……嫌な予感がする』
ポツリと落ちた小さな声は、果たして母さんにも届いているのか。
ここ数日、どうにも胸騒ぎがするのだ。
プリン様の結婚を聞いた時から、薄々感じてはいたが。
ペコが帰ってこない。
男爵と魚人島に向かった彼は、どうやらそこで"麦わらの一味"に遭遇したそうだ。
『向こうは僅か9人のちっぽけな海賊団。
……そう侮っていられる内は、幸せだったわ』
その後ペコ達が再び彼らと接触したものの、麦わら達はまたも逃げ果せた。
"彼らがゾウへ向かう"と聞いたペコは、ベッジと共にそのまま後を追ったらしい。
故郷のみんな宛に、伝言でも頼めば良かったかな。
『……ずっと連絡がつかないんだけどさ。
今のは全部、帰ってきた男爵から聞いた話。
何でも向こうの"ヴィンスモーク"に招待状を届けに行ってるっぽいけど……こんな時間かかるもんかね』
ママさんは計算高い。側で働いててそれはよく伝わってくる。
それでも、それだって狂わない確証はどこにもない。
この海賊団に所属する多くは、そんなこと微塵も考えていないようだが。
怖いのだ。今が壊れてしまうのが。
『しょーもない考えは捨てたハズなんだけどなぁ』
海には自分より強い者なんてごまんといる。
ママさんとか、スイート将星とか。
そんな自分には、"守りたいもの"ができた。
自分の居場所。昔とは違う。
自分は弱い。海賊になってから常々思う。
それでも、"彼らの笑顔を守りたい"と願う自分がいる。
『──どうか、彼らを守ってください』
神でも仏でもない、
生温い風が、何かを伝えるように草木を揺らした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 136人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なめこ(プロフ) - 万さん» 万様、温かいコメントをありがとうございます！駄洒落は割と丁寧に作ってたのでそう言って頂けると嬉しいです。引き続きマイペースで頑張っていきます！ (2022年9月30日 19時) (
レス) id: 1b44704fa6 (このIDを非表示/違反報告)
万(プロフ) - 初めまして、設定も珍しく内容もとっても面白かったので一気に読んでしまいました！！主人公の駄洒落もついつい楽しみにしている自分がいました！今後も応援しています。 (2022年9月30日 0時) (レス) @page50 id: b14a1161fa (このIDを非表示/違反報告)
なめこ(プロフ) - 橋本アリィちゃんさん» 橋本アリィちゃん様、感想ありがとうございます！また返信遅くなり申し訳ございません。今後もマイペースに作品更新していくので、よろしくお願いします！最後までのご清覧、本当にありがとうございました！ (2022年9月10日 13時) (レス) @page19 id: 1b44704fa6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します！とても良いお話でした！今後も頑張って下さい！(*´ω｀*) (2022年1月5日 11時) (レス) @page50 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
なめこ(プロフ) - 烏羽Pさん» 鳥羽P様、ありがとうございます！この作品で少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。今後も自分のペースで作品投稿を続けていくつもりなので、どうぞよろしくお願い致します。改めまして、最後まで読んでくださり本当にありがとうございました！ (2020年12月29日 13時) (レス) id: 64cb88d55b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なめこ | 作成日時：2020年10月30日 18時
