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やっと学校が見えてきて、さてこれから智に道案内を…と思っていたころに
なにやら後ろがふらふらとバランスを崩し始めた。
背中に当たっていた額が、グラ…と落ちそうになっては元に戻り、…落ちて…戻り…
腰を握っている手は、ときどきふっと緩む。
「…智?」
呼ぶと、ぴくっ、と当たっている部分が反応したのを感じた。
心なしか後ろに感じる体温が高い。
「眠いの?」
「ん……?、んーん……」
返ってきたのは舌足らずな返事。
腰を持っていた手が外れて、しっかりとお腹に腕を回してくる。ぎゅう。体温高いな。
背中に柔らかい頬がべったりと押し付けられて…
安定した。
って。
いや寝とるやないかい。安定すな。
「ちょっと智!こっから道わかんないんだから!起きて」
「…、」
「こら!」
「……眠い…、なんか喋って…、しばらくまっすぐ…」
「ハイハイ…」
今にも夢の世界に行きそうな智を落とさないように、慎重にペダルを漕ぐ。
ていうか、なんで俺が慎重になってやんなきゃいけないんだ。
かるく憤りを感じて、さっきの話題を蒸し返してやった。
「だいたいねえ…、ふつうは『俺の家コッチだから』って言うのよ、ふつうは!んでバイバイすんの!友達と帰るときはね?」
「そ…、」
「自分の家の方向くらい伝えるでしょうよ…ふつう」
「…」
「じゃなきゃこんな風にチャリにお前のせて走ることもなかったの!わかる?ていうか起きてる?」
返事がなくて、だけどふらふらしていないので、また自分にとって都合の悪いことを聞き流したんだろうと思っていた。
そしたら、回された腕がさらにぎゅう…と締まって
背中で顔が寝返りを打った感触がした。
「…カズ……、」
やけに弱い声が聞こえる。
眠りへの橋を渡っていた体はぽかぽかとしている。
「……ふつう、って……なに……?」
呟くように零したその言葉に、俺は返事ができなかった。
唐突に、喉がからからに乾いたような気がして仕方なく、
そして背中の智は、きっと
あの 何でも見透かしているような目で、通り過ぎて行く街を見ているのだと思った。
奔放で、純粋で、飾らなくて、無垢で透明な…
宇宙のすべてを知ってるみたいな、あの瞳で。
ちっさくしぼんだ俺の心も、きっと見透かされているんだろう。
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時