bicycle ページ14
自転車のペダルを力いっぱい漕ぐ。
タイヤがチリリリリ…と鳴って、またひとつスピードを上げた。
「なんで学校出たとこから逆方向なのについてきたんだよ!?」
俺の家の真ん前まで来て、自分の家はそもそも学校から逆方向だったと のたまった智。
学校から俺の家まで、ひとりで歩いて30分程度だ。
学校を挟んで反対側にあるはずの智の家に、彼が歩いてたどり着くにはいったいどれくらいの時間がかかるだろうと考えた。
しかも、ここへ来るまでの様々な障害…。
草の陰で虫が鳴けば 智は立ち止まるだろうし、優雅にゆらめくペットボトルの水は暗くなればなるほど綺麗に見えるだろう。
星だって…今日は晴れていたし、さっきより輝きを増すに違いない。
首をうんと折り曲げて 見上げるのに疲れたら、コンクリートの上に智は寝転がるかもしれない。
ほかにも、何百通りの”道草”を食うだろう。でもそれはもう俺の想像に及ばない…。
そうしたら彼は朝までに家にたどり着くだろうか?
…と、このように考えたのがきっと3秒間くらいで、
生まれて初めて家の扉を乱暴にあけ、「ただいま!行ってきます!」とカバンだけを玄関に置き去りにするという、のび太やカツオみたいなことをした。
そしてガレージに置いてあった自転車を出してきて、その後ろに 呆けた顔の智を乗せた。
「つかまって!帰るよ?」と言うと、きゅ、と腰のあたりを掴む感覚。その後、一気にペダルを踏んだ。
そして…
「なんで学校出たとこから逆方向なのについてきたんだよ!?」
今。
じんわりとかいた額の汗を、風が冷やしていく。
歩くよりもずっと速く、後ろに遠のく景色。
「なんでって?」
「だからなんで俺についてきたの?自分の家に帰らずに!」
「どういうこと?カズが待ってたんだろ、廊下で」
「はあ!?」
意味が分からない。
一旦、頭の中で整理する。
【友達が待っててくれた、だから友達の家までついて帰った】
いや、分からなくもないかもしれない。というか、1%くらいは理解してあげたい。
しかしだ。
100歩譲っても「俺コッチだけど待っててくれたから途中まで送るよ」とか言うくない?
もっと譲ったら「俺ほんとはコッチなんだよね」の一言あってもよくない?
なんで黙ってついてくるんだ?
なんでだ?
「なあ智、」
「ん?」
こいつの前では、頭を使わされることばっかりだ……。
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時