Tunnel -PAST-(side A) ページ9
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大ちゃんとオレを、赤ん坊のころから仲良くさせたのは、ふたりなのに
大ちゃんのお母さんと、オレの母さんは、あんなにも幸せに笑みを交わし、贈り物を交わして
長く長く、付き合ってきたのに
たった一夜で、こんなにも変わってしまった。
「どうして…くれるのよ……もう…もう千夜子に…、雅紀に…近づかないで…」
涙に暮れる母さんに、大ちゃんのお母さんは、腰が痛くならないか心配なほど、頭を下げ続けて
その綺麗な手で、大ちゃんの頭を掴んで、それも一緒に、下げていた。
「疫病神っ…」
そう、吐き捨てて、母さんは踵を返した。
ぱたぱたとトイレに駆けてゆき、その後を父さんが追った。
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「大ちゃん…ごめん……」
母さんの前では、しんなりと黙っていたくせに、居なくなった途端に
大ちゃんの肩も持とうとするオレは、ずるかった。
「ごめんね…」
大ちゃんが悪くないことは、分かり切っていたはずなのに
母さんもオレも、父さんも…
それぞれを庇い合うように、大ちゃんを悪者にした。
そうするしか、立っている方法を見つけられなかったのだ。
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「植物に、なった?」
「え…?」
「ちゃこちゃん」
大ちゃんが、顔を上げた。
髪がまだ、濡れていた。千夜子を助けるために、冷たい海に、入ったから。
「植物状態…のこと…?…半永久的に、眠るんだって」
「寝るの?痛くない?」
「い……うん…、痛くは…ないんじゃない…」
突然、衝動的に、オレはここで膝をつき、額を床になすりつけて、心からふたりに謝りたくなった。
大ちゃんは、千夜子を助けるために、冷たい海に入ったのだ。
暗い海で、冷たい千夜子を温めた。思いつく限りの方法で。
「母ちゃ…、ね、痛く…ないんだって、だから、」
眉を下げた大ちゃんが、お母さんの服の裾を 引っ張って、その先 何を言おうとしたのか分からない。
でも、その先の言葉が紡がれることは叶わず、
ぱあん!と乾いた音が響いて、大ちゃんは頬をぶたれた。
自分の方が痛そうに、顔を歪めた大ちゃんのお母さんは
叩いた衝撃で横を向いた頭を、すぐに、これでもかと言うほど大切そうに 抱きしめて
「お願い…ね、いい子だから……」
彼女と大ちゃんにしか、意味が分からないことを言った。涙声だった。
大ちゃんの、そのときの表情は
お母さんの、細くて強い腕に抱かれて
まったく、見えなかった。
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時