sweets(side S) ページ39
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「お、…なになに、ご褒美でも貰いに来たの?」
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先日欠席していた模試を、放課後に受けさせられていた大野くん。
山本先生が、机の真正面に立って監視するものだから、ひどくやりづらそうで笑ってしまった。
廊下から窓越しに、口パクでがんばれと伝えたけれど、届いていたのだろうか…
解き放たれたようなホクホクした顔で、保健室にやって来て、扉を開けるなりぎゅうっと抱き着いてきた。
いつもこうしています!というふうに腕を巻き付け、顔を押し付けるけど、無論、初めてのハグである。
「ちょっとどうしたの?(笑)珍しいねえ」
「終わった、死ぬかとおもった」
「あはは、模試ぐらいで死なないでよ〜」
わざわざ保健室まで報告に来たのか。
体調が悪いとかじゃなく、ただ会いに来てくれたのが、うれしい。
腕の中にいたと思ったら、すぐにきょろきょろして、起動中のパソコンに目をつける。
文書作成ソフトで書類を作っている途中だったものが、途中感丸出しでそこにあった。
「パソコンしてたの?」
「うん、急ぎじゃないけどね」
「ふーん……、でも仕事でしょ?今してもいいよ?」
気を遣われて、少し驚いたけど、顔には出さないでいた。
でも仕事でしょ?とか、言うんだ…意外だな…
思えば、大野くんと会うときはたいがい、彼が体調を崩しているか、眠気にまどろんでいるかだったので、ちゃんと会話することは、少なかったかもしれない。
「ありがと。でも先生もう仕事したくないよ?(笑)」
チラリと時計を見て、肩をすくめてみせた。7時を少し、過ぎている。
大野くんは、あ、という顔をしてから、恥ずかしそうに下唇を噛んだ。
おんなじ表情をつくって、真似をしたら、ぽん、とお腹に弱いパンチをされる。可愛い。
どう考えても小動物である。
「遅くまで頑張ったからねえ……これをあげよう……、っと…どこだっけ…」
食器棚の横の棚から、来客用に置いてあるお菓子を探した。
小袋に入ったマドレーヌを見つけて、自分も同じものを取り、大野くんに渡す。
「はい、ごほうび」
「…うわ…、」
オレンジ色の、おしゃれな小袋に入ったマドレーヌ。
取っておいてよかった、と思う。
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name(side S)→←perfect exam(side O)
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時