ピアニッシモ5 【O/N】[ARS]

Monsoon（side O）【The Floor『内緒話』より一部引用】 ページ31

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夏は、海に入ってもいいことになっている。

春とか梅雨に、早まってはいけない。心の準備ができていないからだ。向こうも、こっちも。



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「…ひこ うき雲 茜空…夏 の、匂いで……♪」


いちど頭まで浸かって、きゅんと頭の先を冷やしたら、そのままぷかんと、仰向けに浮いた。

肺に空気を溜めたまま、少しずつ息を使って歌わないと、沈んでしまう。


肌の表面を、陽の光が じりりと焼く。その痛みが好きだ。

海水が、耳に出たり入ったりして、ちゃぷ、ちゃぷん…と言うのも、たまらなく、気持ちよかった。


「……くだ らない 中 身のない…はなし…ばか り…♪」


空があんまり明るいので、目がしゅんしゅんと痛む。


名前の分からない鳥が、優雅に飛んできて

空を大きく旋回して、もうひとつ、おまけに回ってくれた。
羽がしゃんと張って、きれい。ありがとう。


ぴぃぃ、と鳴いて、違う海の上へ飛んでいこうとする。



「あ……」



いいな

いいな、それ



そう思って、手を伸ばしたら、空気を吸い忘れた身体が、水に沈んだ。

太陽にさらされていたお腹の部分が、きゅう…と冷たくなる。


すこしだけ立ったあぶくが、耳や頬をくすぐった。


海の中は、空よりもずっと、深い蒼。

昼間だから、太陽の光が、照明の役割をしてる。苔の生えた岩や、底の海藻がゆらめくのが、ぼんやりと見える。


目がひりひりと痛い。



【…まだ暑いわい……お入りよ……】



海の水は、貫禄があって、優しい。

潜ったときの、とぷとぷとした静寂も、ふわりと低い夏の温度も、だいすきだ。




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カズが、

ピアノじゃなくて、机に向かうことばかりになった。


もうピアノは飽きて、机のほうを好きになったのかもしれない。

机は、指で押しても鳴らないけど、いいのかな。
しかも机に向かっているカズは、眉をよせていたり、頭を抱えていたりする。

机とは、あんまり相性がよくない気がする。カズは。


でも、言わないでおいてる。

逆に、机が、カズのことを好きなのかもしれないし。



【……暑いわい…まだ…】



海中で、ゆらゆら光が揺れるのが綺麗。

手を伸ばしたら掴めなくて、その代わりに、手の上でゆらゆらキラキラ、踊った。


光の波にのまれて、ふっと、気がとびそうになる。


あ、また…



----『大野、…息、して』



わがままだって

分かってるけど、



たまに、呼吸を忘れてしまうときは


毛布を敷いて、絵を描きたいと思う。



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