season ページ29
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4月になったら、智は少し、荒れた。
去年より長いこと咲いていた桜が、突然の大雨で、全部散ってしまった。
枝がもっさりと抱えていたピンクの花びらが、まるごと、どすんと、コンクリートや川や土の上に、落ちた。
外国のコメディみたいに、ほんとうにドスン、と…1日で全部落ちて
智はそれを見て、おかしそうに笑った。
久しぶりに、目立たない八重歯が無骨に覗いて、ずいぶん乱暴な印象を受けた。
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「んん、こっちのが、キレイか…」
散ってしまった桜の花びらが、川沿いのガードレールにへばりついている。
どれも街の空気で汚れていて、フチが茶色く枯れていたり、透明なひっかき傷ができていたりする。
そのへばりついたやつの中から、智は、比較的あたらしそうな、ピンクの花びらを選んで取った。
「カズ」
急に呼ばれたかと思うと、にやりと笑って 智は近づいてくる。
細い指が不意に伸びて来て、頬にペタリと、冷たい感触があった。
「あは、ついた」
すうすうと、目元のあたりが冷たい。
そばにあった、乗り捨てられたみたいな古い原付のミラーを覗くと
自分の頬の、上の方…ちょうど目尻のあたりに、濡れた桜が ついていた。
「ちょっともー…ヤメテよ」
「あ、だめ、取んないで」
ガードレールに張り付いて、雨にさらされた花びらなんて、絶対に清潔じゃない。
口に運ばなかったから油断していたけど、まさか顔に貼り付けてくるとは。しかも俺の。
奇想天外だ。まあ今更か…
「自分に貼ればー?」
「見えないじゃん、それじゃ」
「……あっそ」
本気で呆れながら、俺は目元の桜を、ぐいっと拭い去ることができない。
もう片方にも、おんなじように桜を貼り付けられて
くすくすと笑われた。
頬を押す指の感触が、無慈悲で、荒い。
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松本先生が居なくなった美術室には、智は一切、寄り付かなくなった。
そうやってできた放課後の 空いた時間を持て余した智は
今までよりもずっと激しく、身を削るような荒々しさで、見えない何かを求めた。
2年の時から、クラスは持ち上がりだったから
俺は授業中の智を、まだずっと見ていられた。
まれに、窓の外や黒板をぼんやり見つめながら、ぎゅっと息を詰めていることがあって
そのたびに、誰かに教えられたみたいに 自分の喉元を撫でて、そっと静かに呼吸を取り戻すのが
妙に危なっかしくて、心配になった。
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時