narrator ページ3
「そう…だったの…」
何かに打ちのめされたような、弱い声だった。
「また…落ちる…って…、一緒に居たらって……、大ちゃん…」
うわごとのように、相葉くんが繰り返して、すとん、と力が抜けたみたいに丸椅子に座る。
ふー…、と、自分を落ち着けるように 長いため息をついて、前髪をくしゃりと乱し、しばらくそのまま、押し黙った。
.
沈黙が訪れて、声の大きな社会の先生の授業が、遠くで聞こえた。それから、グラウンドの声が。
.
「…大ちゃんは…もう……、忘れちゃってると……思ってた…」
ぽつり、と零れ始めた声は、沈黙の延長線上にあった。
カチカチという時計の音や、コポポ…という金魚鉢の音と、そのときの相葉くんの声色は似ていた。
「でも……そんなわけ、ないよね…、………じゃないと、こん な…」
ぽた、とシーツの上に小さなシミができた。
相葉くんの目から涙が落ちていた。でも、そんなに多くは、落ちなかった。
.
「逃げない、って…どうゆうことなんだろうね」
.
ぐい、と制服の袖で頬を拭って、相葉くんが言う。
切なく零れていた涙はきれいになくなって、いくぶん、強い瞳をしていた。
迷いと決別したような、誠実な瞳をしていた。
「カズのコンクールが終わったら…どっちにしろ、聞いてもらおうと思ってたんだ」
智しか気づかなかった、深い深い緑の瞳がそこにあって、大丈夫だよ…と優しく言ってくれている気がした。
「母さんが、大ちゃんの首を絞めたことも…罵ったことも…、あやふやに ごまかしたまんまで、ごめん」
空いた窓から風が吹き込んできて、薄いカーテンがぶわっと膨らんだ。
その動きが…なんとも言えず優しかったので、智を起こして 見せてあげたかった。
なにかが、明らかになる気配がする。
それは、ずっと求めて、待ちわびていたことのはずだったのに
なんだかちょっとだけ、怖くて……
怖かったけど、でもやっぱり、欲しかった。
「生まれた病院も、一緒だったんだ……、当たり前みたいに、いつも くっついてた。…大ちゃんと、オレと、妹の千夜子と、3人で」
櫻井先生が、いつの間にか、居なくなっていた。
保健室の入り口、丈夫そうな摺りガラスに、大きな背中がぼやっと映っていて
終わるまで、待っていてくれると…そんな気がした。
その背中が、俺と相葉くんの、この時間を支えてくれていた。
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childfood friend -PAST-（side A）→←scared
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね（笑）あはは (2021年5月6日 18時) (
レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです！読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント！？とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました（笑）とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´；ω；`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵！現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きんにく
| 作成日時：2020年6月7日 0時
