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bone ページ38

医師が病室を出て行ったので、もっともっと静かになった。

うるさいほどの静寂、とかいう言葉があるけど、今それを使えば正解なんだろうな。


「…さっき、濱田くんのご両親が謝りに来たよ」


父が、太い声で言った。
オケの指揮をしながら、合唱団に入っている父は、細身なのに、大男のようなバスの声を響かせて歌う。


「なんて言ってた?」


俺の声は、父に似ず、声変わりをしてもあまり低くならなかった。

でも今日、智のことを侮辱した、濱田という生徒に向かって出した声は、よく考えたら父の声に似ていたような気がする。


「ただ、すみませんでしたって……息子さんは、気が動転していて来れなかったそうだ…また後日、家族で謝罪に来るって…」

「そう…」


母が泣いていた。母が泣いているのを、初めて見た。



.




----『てゆうかあいつ言葉わかるん(笑)』


べつに、あんなに激昂しなくても良かったのかもと思う。


----『……何がそんなに面白い?』


でも、窓を殴りつけた拳が、じんじんと熱を持っていて、疼いた。

『あ?なに?擁護派?』と、挑発するように言われたのを、ほとんど遮るように殴った。と、思う。

そのときに、見えた名札が、「濱田」だった。同じクラスだけど、顔は、知らなかった。


そのあとは、あまり覚えていないけど、教師も止められないほど激しい揉み合いになって

どん、と身体を押された俺が、よろめいて、自分の作ったガラスの割れ目に突っ込んだ。

脆くなっているガラスは、いとも簡単に壊れた。


だから、そのまま、ガラスの破片と一緒に、雨の降りしきる中庭に落下したのだ。




.




「……ふっかけたのは…、俺のほうだよ…」


ケガのせいで、身動きがとれないのに、母のすすり泣く声に耐え切れず、いたたまれない。

助けを求めるように櫻井先生を見たら、にこりと小さく微笑んでくれた。


「…大変申し訳ないのですが…、状況を、彼の口から聞きたいので…」


優しい口調で先生が言うと、察しのいい父が、


「ああ、すみません、妻も取り乱してしまって…、ちょっと席、外します」


頼りがいのある口調でそう言って、母の肩を支えながら、病室を出て行った。




.




「…はぁ……」


ぱた…と扉が閉まると、一気に力が抜ける。

母親に泣かれるというのは、こんなに効くものか。



.

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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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