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siren(side M) ページ36

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「ええと…、付き添いの方は…養護教諭の先生ですか?」


救急隊員が、白衣を着た翔を見て言った。

二宮は、担架で、正門に留められた救急車に運ばれていた。


「はい、僕が…、あ、ちょっと待ってください」


翔が、くるりと踵を返して、こっちを向く。懸命に処置をしたせいで、白衣はびしょ濡れで、泥で汚れていた。


「潤、俺行ってくるからさ…あっち、お願いしてもいい?」

「あっち?」


翔の指差す先には、花壇の傍で倒れている大野と、そばで戸惑うようにしゃがんでいる相葉。


「二宮くんを見て 取り乱したんじゃないかな…、気を失ってるみたいだから、保健室まで運んであげてほしい」


聡明そうな光を、目に宿してそう言う。


彼の対応能力の高さに、舌を巻いた。

救急車要請の際に伝えるポイントを、俺に伝達しながら、二宮の応急処置や呼びかけを適切に行い、

駆けつけた先生方への行動指示も出しつつ、


さらに、

その横目で、彼らの様子も見えていたということだろうか。


視野が広すぎて怖い。


「ずいぶん濡れてるから、脱衣所にある替えの制服に着替えさせといて。相葉くんも。大野くんは、落ち着かないようなら授業戻ってもらわなくていいから」

「…わかった。午前中は授業ないから、付いてるよ、大野に」

「助かるよ」

「同じ人間かと思うほど優秀だよな、お前は」

「なに言ってんの…潤が居なきゃお手上げだったよ…、あ、あとさ」

「ん?」

「低血圧ぎみだから…起き上がったり立ったりするとき、特に気を付けてあげて。よく眠れてないみたいだし。あと相葉くんは今日久しぶりに来てるから…」

「分かってるよ(笑)俺だって曲がりなりにも教師だぞ?…早く行けよ、大丈夫だから」

「ああ…ごめん、」


そこでやっと、翔は照れたようにふっと笑った。

肩の力が抜けて、いつもの角度に落ちる。


「うん。こっちは任せろ」

「悪いね」


濡れた白衣を脱いで、洗濯しといて、と渡される。

そのまま翔は、救急隊員についてゆき、学校を出た。



「すげえ、な……ホント」



白衣が汚れたぶんだけ、濡れたぶんだけ…いやそれ以上に

自分の命とおんなじように、彼は生徒の命を想う。


教師は誰もが、大なり小なり、そういう気持ちを持っているけれど

翔のそれには、及ばない。きっと。



清潔な香りのする白衣を、ぎゅっと持ち直せば…

自分もすこし、届くような気がして


雨で濡れた前髪をかき上げ、大野と相葉の元へ急いだ。



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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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