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My way(side M) ページ15

保健室に近づくと、中から軽い笑い声が聞こえた。

翔ひとりのものなので、電話でもしているんだろう。邪魔にならないよう、入り口の扉に
凭れて、電話が終わるのを待つ。

「…ああ、うん、ほんと?…、ふふ、無理しないで…」

電話の相手は生徒だろうか。俺のときもそんなふうに優しく喋ってくれたら、…なんてウソ。気持ち悪すぎる。

生徒の前で、しっかりと教師になれる翔はすごい。
毎日、教師のスイッチを入れて話すのは意外と気疲れするものだ。常に正しくいないといけないから。
彼は、正しくいることから逃げない。そこが一番、彼の優秀たる所以だと思っている。


俺はどうだろう。


「…そっかー…、じゃあ…うんうん、……頑張ってるね…明日、うん…」


正しくいることからは、もう早々に手を引いた。窮屈だったからだ。

教師という制服を着崩さないと、自分らしく息をすることができなかった。

俺はどうだろう。だなんて思っても、もう大してセンチメンタルにもならない。

これが俺の在り方だから。


「…うん…気を付けて来るんだよ?、ふふ(笑)…ハイ、さよならぁ」


ピ、と音がして、電話が切れたのが分かった。


「もういいよー」と、中から間の抜けた声が飛んでくる。気付いていたのか。
全く勘が鋭いというか…保健室に入って来る人間に敏感なのかもしれない。職業柄。


扉をガラガラと開けたら、嬉しそうな笑顔と目が合った。


「なんだよニヤニヤして」

「…2年の相葉くん。このところ欠席続きだったんだけど、明日から来てくれるって」

「さっきの電話?」

「そ。嬉しいねえ…」

「さすがですねえ」

「日向先生の家庭訪問のおかげだよ」

「謙遜しちゃって」


柔らかいほうのソファに身を沈めると、気を利かせて「コーヒー飲む?」と聞いてきた。
さっき缶コーヒーを飲んだので、断る。

特に用もないので、ぐるりと保健室を見渡した。

部屋の隅に、古びた四角いソファがある。

麻の生地で、座り心地も固そうだ。少し汚れていて、あまり座りたくなる外見でもない。

捨てられるのを待っているみたいに、その付近だけ薄暗く見えた。


「なあ、あのソファもう古すぎね?捨てたら?場所とるし」


率直にそう提案すると、翔は苦笑いして「捨てようと思ってたんだけど」と言った。


「さとしく…大野くんが、昼休みにソコで寝るんだよ、最近」



.

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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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