冷たい手 ページ42
早朝、廊下に気配を感じた。この足音は陣左だ。
それなら、彼女を隠す必要もない。
そんな事をしてもすぐに分かるだろうから。
私はゆっくりと上半身を起こしてそちらを見た。
「組頭、本日の予定を持って…参り…ま、」
戸を開けて顔を覗かせた彼は、信じられないと言うふうに目を瞬かせた。
「…前々から、すぐに開けるなと言っておいただろう。悪い癖になってるよ。」
「……すみません…」
今度は彼の目が、状況を把握しようと素早く部屋の各所に向けられたのを感じた。
しかしやはりその視線は、私に抱きつくように眠るAに止まる。
「…まだ抱いてはないよ」
「だっ…っ!そんなこと聞いてません!」
気になっていた癖に。
「組頭、その…仲直り、は、したんですか…」
「…まぁ、そんな所かな。」
それを聞いた彼の顔は、一気に安堵の色に変わった。
「それなら…良かったです。」
「…それって、私が無理矢理…とでも思ってたってこと?」
彼はぎく、と言う風に固まり、少しの間目を泳がせた。
「……最近の貴方ならやりかねないかと…。」
あぁ、君にまで、そんな風に映ってたんだね。
「彼女の方から尋ねて来たんだよ。」
「…そうですか。」
彼は少し微笑んだ。
「それ何…。」
「いや、A、よく頑張ったなと思って。」
「…そうだね。」
昨日の訪問には、確かにわたしも驚いた。
彼女が今更、私が知らない一面を持っているとも知らず、更に驚いた。
でも、そう言う所こそ、私が彼女に惚れている要因だ。
「…とは言え、まだ皆んなには言わないでおいてくれるかな。」
要らない憶測が飛び交うのは面倒だ。
「はい。分かりました。では私はこれで。」
彼は手に持った紙をその場に置くと、静かに戸を閉めて去っていった。
正直言って、私の首を絞める彼女の手の冷たさに、不徳ではあるが心が高鳴った。
この手になら、命を取られても惜しくない…いや、
命を取られるなら、この手でないと、納得がいかない。
心の底からそう思った。
「ところで…君のその狂気は、愛と恋のどっちなのかな。」
「狂気と言えば、貴方もでしょう。」
「そうだね。」
「…全てが純粋に愛だとは、言い切れないと思います。でも…単なる恋なら、こんなに思い続けてないです。」
それは、私も同じなのだと思う。
正直、どこからが家族としての親愛で、どこからが男女としての恋なのかは私にも分からない。
そんな一言で表すには、とうに私たちの関係は複雑になり過ぎているのだと思う。

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Nagisa Honda(プロフ) - まろんさん» まろんさん、コメントありがとうございます。雑渡さん…良いですよね…思い返せば、私も多分初推しの座を奪われてました笑。これからも書きたいことを書き殴っていくので、もし好みが合いそうでしたらご覧いただけると嬉しいです。 (1月13日 0時) (レス) id: f3e20353fb (このIDを非表示/違反報告)
Nagisa Honda(プロフ) - 上衣さん» 上衣さん、コメントありがとうございます。実は私も映画で一気に組頭にハマりました…はちゃめちゃに強キャラでスマートでかっこいいですよね…! そんな組頭をちゃんと表現できているかかなり不安ですが、これからも気が向いた時に更新頑張ります! (1月13日 0時) (レス) id: f3e20353fb (このIDを非表示/違反報告)
まろん - こなもんさんは私の初恋泥棒なので見ててキュンとします!途中の作者様の気持ちにめちゃ共感しました! (1月11日 2時) (レス) id: 45a7f9af8d (このIDを非表示/違反報告)
上衣(プロフ) - 途中、作者様のお気持ち「雑渡さんのこう言う一面見てみたい」VS「雑多さんはこんなことしない」VSダークライに笑ってしまいましたw 確かに「雑渡さんはこんなことしない!でも、こんな一面をみてみたい!」と私もなります。続きをとても楽しみにしております。 (1月10日 20時) (レス) id: 474ffd7195 (このIDを非表示/違反報告)
上衣(プロフ) - 初めまして。去年、雑渡さんの存在を知り、今回の映画で沼にハマってしまった者です。終始、心の中で「キャーキャー」(赤面)しながら読ませていただきました。続く (1月10日 20時) (レス) @page11 id: 474ffd7195 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nagisa Honda | 作成日時:2025年1月9日 11時