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我ながら意地悪な質問だ。
彼女は逡巡していたが、暫くすると意を決したように顔を上げた。
「貴方は、私の全てですよ。」
彼女のその心に、大きく心が揺らいだのを感じた。
そうであればどんなに嬉しい事かと思う反面、そんなに都合のいいことがあるかと疑う心が芽生えた。
「…また随分と大層な事を言うね。」
「でも、本当の事です。」
そう言う彼女の眼差しは、まさに真剣そのものだった。まっすぐで、屈託がなく、透き通っている。
「なにより、組頭。」
彼女は1度目を伏せてから、ゆっくりと微笑んだ。
「私は、貴方に嘘なんてつけません。貴方が一番ご存知でしょう?」
あぁ、何でこの子は、こんなにもまっすぐで、私を惹きつけて止まないのだろう。
「A…それは、どういう。」
「そのままの意味です。貴方がこの命を繋いで下さった時から、私の命は貴方のためにあるんですから。」
「…そんな事をされる為に、君を助けた訳じゃない。」
「知っています。だからこれは、単なる私の我儘です。
君はそんなことを、平気な顔で言ってのける。
「なら…命を差し出せと言えば、君はそうするんだね。」
これには流石に躊躇うだろう、と思った。
しかし、それは大きな誤算だった。
「えぇ、勿論。でもその時は…」
彼女が瞬きをすると、その微笑みは一瞬でどこか翳りのあるものに変貌した。
「貴方の命も、私に下さい。」
一瞬、その笑顔に目を奪われた。そのうちに、一挙に間合いを詰められる。
「っ?!」
気がつけば、彼女の掌が、私の喉元に触れていた。
「私、とても我儘なので。」
そう笑う彼女は、私の知らない、だがずっと見惚れていたくなるような哀愁のある美しさを湛えていた。
「…A…、」
この人の眼が不安に揺れる所など、私は生まれてこの方見たことがなかった。
「私がどんなに我儘か、分かってくださいました?」
それを聞いた彼は、1度目を伏せてからこちらをしっかりと見つめて笑った。
「あぁ、分かった。」
私の手に彼の手が重なる。と同時に、もう片方の手が私の喉元に伸びる。
「君の命は私の為に、私の命は…君のためにあるからね。」
あぁ、貴方はずるい。
その言葉は、私達にとってどんな愛の囁きよりも遥かに強固で揺るぎない、死の誓いなんだから。
「私以外に殺されたら、絶対に許しませんからね。」
「それは私の台詞だよ。」
他の誰かが見たら、これを狂気と呼ぶのだろう。
でも、それでいい。
私は、この人のためだけに狂い咲く花になりたい。

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Nagisa Honda(プロフ) - まろんさん» まろんさん、コメントありがとうございます。雑渡さん…良いですよね…思い返せば、私も多分初推しの座を奪われてました笑。これからも書きたいことを書き殴っていくので、もし好みが合いそうでしたらご覧いただけると嬉しいです。 (1月13日 0時) (レス) id: f3e20353fb (このIDを非表示/違反報告)
Nagisa Honda(プロフ) - 上衣さん» 上衣さん、コメントありがとうございます。実は私も映画で一気に組頭にハマりました…はちゃめちゃに強キャラでスマートでかっこいいですよね…! そんな組頭をちゃんと表現できているかかなり不安ですが、これからも気が向いた時に更新頑張ります! (1月13日 0時) (レス) id: f3e20353fb (このIDを非表示/違反報告)
まろん - こなもんさんは私の初恋泥棒なので見ててキュンとします!途中の作者様の気持ちにめちゃ共感しました! (1月11日 2時) (レス) id: 45a7f9af8d (このIDを非表示/違反報告)
上衣(プロフ) - 途中、作者様のお気持ち「雑渡さんのこう言う一面見てみたい」VS「雑多さんはこんなことしない」VSダークライに笑ってしまいましたw 確かに「雑渡さんはこんなことしない!でも、こんな一面をみてみたい!」と私もなります。続きをとても楽しみにしております。 (1月10日 20時) (レス) id: 474ffd7195 (このIDを非表示/違反報告)
上衣(プロフ) - 初めまして。去年、雑渡さんの存在を知り、今回の映画で沼にハマってしまった者です。終始、心の中で「キャーキャー」(赤面)しながら読ませていただきました。続く (1月10日 20時) (レス) @page11 id: 474ffd7195 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nagisa Honda | 作成日時:2025年1月9日 11時